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獣戦士、仲間を見つめる。

 空に浮かんだ黒い空気(・・・・)は、徐々に視界の彼方へと引いているようにも思えた。


「黒い粒子が、消えていく……? それに、こいつらの動きまで鈍ってってるんじゃねェか……?」


 怪訝そうな表情で拳を振るい続ける目線の先には、ティアリスがいた。


「ローグの旦那が、上手くやってくれたの! ローグの旦那が、ティアとの約束、守ってくれたの!!」


 ティアリスは、《狂狼化》をしているが、暴走の様子は、一切なさそうだ。

 ぴょこぴょこと嬉しそうに耳を動かすティアリスは、活気を取り戻したかのように不死の軍勢に次々と食ってかかっていた。


「……そっか、それなら、あの魔王も無事ってこと……なんだよな……」


 ほっと、胸をなで下ろしたクラリスは、ふと周りを見渡した。


「あの姉妹に遅れを取るなッ! 聖地『巨木』は、俺たちで守るんだァァァァァァッ!!」

「頭ァ! ようやくアンタと同じ目線で戦えた気がするぜ! ありがとよぉぉ!」

「てめーら絶対死ぬんじゃねェぞ! お頭の命令は絶対なんだからなッ!」


『――応っ!!』


 聖地『巨木』には、屈強な獣戦士の男たちが次々と不死の軍勢に立ち向かっていた。


 ――絶対に死ぬんじゃねェ!!!


 ティアリスの《狂狼化》を、クラリスはもう止めることはしなかった。

 ティアリスと手を取り合ったクラリスは、止まらない不死の軍勢を目の前にして、後方樹上の全獣人族に向けて声を張り上げた。


 ――アタシとティア(・・・・・・・)はこれからこいつらを掃討する。……あー、その、あれだ。お前等も、死なねェ(・・・・)分には、何をしてくれたって構わねェぞ。


 素っ気なく、獣人族の族長が放ったその言葉は、遥かに遠回りだったものの、初めて仲間に(・・・)助力を願った瞬間だった。


 嬉しそうに毛並みを逆立てて、『巨木』の洞から次々と飛び降りる獣人族たち。

 それは、老若男女問わずだった。


「水臭いですよお頭。そんななるまで一人で戦って!」「獣人族は、私たちで守っていくんですからね!」「クラリス族長、『巨木』裏側の敵は殲滅しました! こいつら、案外弱いかもしれませんね!」「5体撃破! 族長、俺にも倒せたー!!」


 わいわいと、皆で巨木を囲って異形と敵対するその姿に、クラリスの頬がかぁっと赤らんでいった。


「……んだよ、守んなくても、充分強いじゃねェか。アタシ、バカだなぁおい……ッカッカッカ」


 目頭を手で押さえたクラリスに、ティアリスは笑った。


「みんなみんな、クラリス姉が心配だったの! みんなみんな、クラリス姉と一緒に(・・・)聖地林(リートル)を守りたいの!」


 黒い粒子を飛ばして次々と消失していくスケルトン・ゾンビ軍。

 見渡せば、各所で獣人族がそれぞれ躍動している。

 各個撃破している者もいれば、何人がかりかで協力して打ち倒している者もいる。

 それぞれ皆、輝いている。そこには獣人族本来の、猛々しい姿があった。


「……ホント、こんなすげェ奴等ばっかだったってのに、バカだなぁ」


 汗か、涙かは分からない。

 獣人族たちの乱舞は、不死の軍勢が完全に消え去るまで続いていたのだった。

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