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始祖の魔王、墓地へ行く。

 冷たい夜風を受けながら、ローグはイネスを向いた。


「――まぁ、かつては気がついた時にはお前に担がれて空を飛んでた訳なんだが。今の魔力放出に心当たりはあるのか?」


 イネス・ルシファー復活からはや数年。彼女は定位置であるローグの側で、「可能性は、およそ二つです」と答える。


「一つに、何らかの者が故意的に私の墓をこじ開けて復活させようとしたというものです。当時、ローグ様をお連れして魔族領域から立ち去る際に、私は1000年間溜め続けていた魔力のほとんどを空っぽの墓地へと置いて行きました」


「まぁ、イネスほどの魔力の持ち主が墓地からいなくなれば、魔族なら勘付くだろうしな。魔力だけでも置いてってカモフラージュさせたってことか」


「その通りです。現に蘇生を頂いてはや数年。魔族側にそれを勘付く動きは感じられませんでした。そして二つ目は、始祖の魔王(わたし)の墓自身に用があった、ということでしょうか? それに、妙なことがあるんです」


 頭をひねるイネスの脳裏に過ぎっていたのは、同じく朋友のシャリス・マーロゥの墓荒らし事件。

 同時期に、イネスとシャリスの墓が何らかに荒らされる事実は、切っても切れない関係にあるように思えた。

 ちらり、イネスは心配そうにローグを見た。


「あの墓地は、死霊術師(ネクロマンサー)によって掛けられた強固な呪いです。出立する際に魔力を封じ込めはしたものの、あの墓は死霊術師(ネクロマンサー)にしか開けないものだと思うのです」


「……? イネスが復活()てから、俺はあの墓に全く関与してないぞ――いや……?」


 言いかけて、ローグは遙か遠くを見つめた。


「イネスの墓の存在を知る者も極端に少なければ、解呪する方法を知るのなんて俺くらいのはずだ。ってなると、俺の他に死霊術師(ネクロマンサー)がいる、もしくは俺の他にも例の本(・・・)を所持している奴がいる……ってことになるのか?」


「ローグ様は、かつてお持ちしていた本はどちらに?」


「昔からの古参兵に預けてるよ。ついこの間も自分の名前の下に何も記載されていないことを確認したばかりだ。そこには、他の奴の名前もなかった」


 二人の間に、めくるめく大きな謎が迫り来る、どこか悪寒のようなものが走った。


「恐らく、この大規模な瘴気(ミアスマ)放出に魔族が気付いていないわけもないでしょう。今、魔族を支配している《不死鳥》の異名を持つフェニックス一族が、私の魔力を流用して聖地林(リートル)を壊滅しようといている可能性も否定はできません」


 イネスは、すぐさま背に一対の黒翼を顕現させた。


「目的地は魔族領域(ダレス)、《封魔の間》だな。イネス、俺も行くぞ」

 

 ローグが着崩していた新しい冒険者服を纏い、大きく息を吸った。――だが。


「いえ、ローグ様は生身の人間です。魔族以外に悪影響のある瘴気(ミアスマ)の出所ともなると、もしもローグ様のお身体に何かあっては、配下失格です。それに、ニーズヘッグの体調のこともあります。ローグ様のお身体に何か異変があれば、少なからず我々への影響も出てくるでしょう。ここは私に一任していただけないでしょうか」


 ニーズヘッグは、通常よりも格段に濃い瘴気に早くも身をやられかけている。

 元々、蘇生させているものの生身の身体と比べると、身体と魂の霊的結合力は薄い。

 加えて、元々の巨体を無理矢理圧縮している今、瘴気ミアスマの体内蓄積量比率で言えば巨体の時の濃度よりも格段に多くなる。

 イネス・ニーズヘッグ共に、主の生命力がこの世に魂と身体をつなぎ止める大きなファクターとなっているなかでは、ローグの生命力の灯火が消えそうになるならば、二人ももちろん影響を諸に受けていく。

 イネスの同僚への思いに、ローグは小さくため息をついて呟いた。


「……分かった。魔族領域ダレス周辺の調査はイネスに任せる。その代わり、何かあったら必ず報告だ。俺自身は最小限の動きに止まらせてもらうが、全く動かないことはないと思っておいてくれ」


「承知しました。ローグ様は、可能な限りニーズヘッグの側にいてやってください。あんな豪胆な龍とはいえ、失うことは出来ない無二の戦力です。――では」


 短く言い残して、イネスは飛び立っていく。


「ニーズヘッグ復活の時は、追加戦力にあんな嫌がってた奴が……。なんだかんだ、あいつもニーズヘッグのこと、認めてるんだなぁ」


 かつて自らが封印されていた地へ赴くイネスを見つめながら、ローグは一人頬を搔いていた――。

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