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《世界七賢人》、破滅する。

 《世界七賢人》は、文字通り世界を変えた。

 人類と魔人の1000年にも及ぶ闘争に、終止符を打った。

 魔人の領地は縮小され、大陸北東部のごく僅かな地域を魔人達の住処として認めさせた(・・・・・)


 国籍も、職業も異なる七賢人同士は、互いに故郷へと戻り、明確な国境線を決めた。

 地域固有の《冒険者ギルド》システムは残されたまま、各国間での未曾有の事態に備えるべく《国際ギルド連盟》システムを採用。《世界七賢人》以降現れたことの無い、Sランク以上のパーティーを誰もが目指せるようになって、はや6年。

 《冒険者ギルド》加盟パーティー総数500万余りの現在において、SSランクの《世界七賢人》を上回る階級を保有するパーティーは――。


 ――まだ名も無きローグ・クセルのパーティーただ一つ。


○○○


 龍の業火に焼かれる味方を、ヴォイドは呆然と見ているしかなかった。


 あらかた掃除が終わったのか、ニーズヘッグがミニマム化してふらふらとローグの肩に止まった。

 ヴン、と。次々と音を立ててヴォイドの周りに転移の魔方陣が展開され、幾人もの兵士達が姿を現していく。

 

「ヴォイド様! 全地区、劣勢です! 味方の魔法力反応が次々に消失!」

「ガジャ地区からご報告! Sランク級巨人(トロール)出現に手がつけられません!」

「んなことよりダルン地区(こっち)の方が先だ! 何だあのバカみたいな龍は! 精鋭の魔法術師が壊滅だ! もう戦線が維持できていません!」

「《世界七賢人》のお力を、今こそ帝国が為に! SSランクのその力、見せつけてやりましょうよ!」


 ヴォイドの周りに次々と人が集まってくる。


「鑑定士さんは、ちゃんと皇太子さん護ってるんだろうな……? イネスに、大聖堂向かわせておけば良かったか?」


『とはいえ、鑑定士とやらの魔法力も減っているようには見えん。それなりに善戦はしているのだろう』


 遠く、王都中央の大聖堂からも火の手が上がっているのを見てローグとニーズヘッグはふと呟いた。


「《世界七賢人》の、力……?」


 ヴォイドは虚ろな目で呟いた。

 《魔法術師》ヴォイド・メルクールはSSランクの魔法術師だ。

 常日頃から魔法の改良に勤しみ、階級不明の国家に跨がる転移魔方陣だって考案し、発動させた。

 彼らが何不自由も無く空間転移を公使出来るのだって、ヴォイドが簡易的な魔方陣を開発したおかげでもある。


 空間魔法を始めとしたSSランクを使役するヴォイドは、当然もう一段階上の魔法習得にも臨んでいる。

 だが、それは今まで使うことがなかった。

 そして、これからも使うことがないだろうと、その時までは思っていた。

 

「はい! 先帝の遺志を受け継いで、大陸統一を為し得るのはヴォイド様しかいらっしゃいません!」


 希望に満ちた瞳で、帝国兵士はヴォイドに傅く。


「そうですか、私の力が、役に立ちますか……」


「はい、もちろんです! 一緒に、闘いましょう!」


「……そうですね。皆さん(・・・)私と一緒に(・・・・・)闘いましょう(・・・・・・)


 瞬間、ヴォイドの周囲に不気味な魔法力が漂い始めた。

 ヴォイドを中心として、赤黒い魔方陣円が兵士の周りを覆った。


 ゾワリ、怖気のようなものがローグの背筋をなぞる。


「ヴォ、イド……さま?」


「これは決して使うはずもなかった魔法だ。SSランクの概念を超えた、SSSランクの魔法を。ローグ・クセル。貴方がSSSランクだと言うならば、これで私は同等だ。これで私も貴方と同じだ」


 魔方陣の中から、黒い質量を帯びた幾本の手が、じわじわと伸びる。

 ヴォイドの周りに集った兵士達の脚に纏わり付き、臑へ、太ももへ、腰へ、胸へ、そして、首元へ。

 伸縮自在の黒い手は、兵士達の身体に不気味に巻き付いていく。


「アハはハ」「アソびニキたヨ」「イっショニあソボ?」「フフフ」「オに-ちャーン!」「あタラしイおもチャガきたネ!」「わたシがさキだよー!」「きれーナかラだしテルネ!」


 幾重にも重なって聞こえてくる、子供達の声。

 同じ声質にもかかわらず、距離感も全く掴めない。


「ヴォ……イ……さ……?」


 兵士達は、一歩も動けない。

 手を伸ばし、円の外へと逃げようとするも、その黒い手は巻き付いて離れない。

 黒い手はどこまでも巻き付き、兵士達の身体を丸ごと包んでいった。


 その様子に、思わずニーズヘッグも苦笑する。


『おいおい、奴までこっち側に来るってのか?』


「言ってる場合か。死者の魂を扱う輩の厄介さは、俺等が一番知ってるだろ」


『くはははは。尤もだ。何にせよ、イネスの奴が見ていなくて良かったな』


「……そうだな」


 帝国兵士10人余りを飲み込んだ黒い手は、光の粒子を発しながら消えていく。

 もちろんそこに、飲み込まれていた10人の姿は無い。

 粒子は次第にヴォイドの元へと集約されていき、彼の力は跳ね上がる。

 魔法力量も、その質さえも邪気を孕む。


子供達の鎮魂歌(リベリ・レクイレム)。かつて始祖の魔王を破滅させたSSSランク級の、伝説の魔法。かつては幼き子供の無邪気さを、命と引き換えにして取り出した。私は、部下の命を生け贄にした。自前の魔法力を、更に強めた。これで、負けない。誰にだって負けない。やれるものならば、やってみるといい。貴方が護りたいものなど、容易く破壊してみせますよ」


 ヴォイドは、指をパチンと鳴らした。

 姿を消したヴォイド。その行き先は、明白だった。


 人の理をも捨てて、力を手にした男にローグは舌打ちをせざるを得なかった。


「わざわざこっち側に来なくてもいい奴が、そんなもん使ってんなよ……。ニーズヘッグ!」


 ローグの指示と共に、再度巨大化したニーズヘッグの背に乗り込む。


『了解だ。行き先は?』


「大聖堂だ。鑑定士さん達が危ない。それと――」


『それと?』


こっち側(・・・・)の領域に入ったことを、死ぬほど後悔させてやる。最後の悪あがきまでぶっ潰して――それこそ、死ぬまでな」


『……実に主らしい』


 ローグの言葉に、ニーズヘッグは『くくく』と笑い、大きく翼を広げたのだった。


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