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死霊術師と、SSSランク冒険者と。

 バルラ帝国が精製した巨大魔方陣は、王都を中心として、円を描くように12の転移魔方陣が仕掛けられている。

 《知力》SSランクのカルファが、その魔方陣設置の情報を受けて襲撃の勢いを予測したものによると――。


 イネスは呟いた。


「最も戦禍の大きな場所になるであろうダルン地区にはラグルド、次点ガジャ地区にグラン、シャルロット地区には皇国兵士。主にこの3つを破られれば、中央の大聖堂へと侵入する道が作られます」


「鑑定士さん達は、どこに?」


「カルファ・シュネーヴルは、最小限の兵力と共に大聖堂の中で籠城戦を敷くつもりだと聞いております。冒険者街の非戦闘員やミカエラ・シークレット、ルシエラ・サルディアらを人質に取られるわけにもいかないから、と。親玉であるヴォイド・メルクールの出現箇所は恐らく――ダルン地区になるだろう。そう聞いております」


「分かった。ダルン地区には俺たちが向かう。イネス。お前ばかりに負担を強いて申し訳ないが、やってくれるな?」


 ローグの合図に、イネスは「無論です」と柔らかい笑みを浮かべた。


 帝国の国家転移魔方陣は、イネスの合図一つで自軍のものとなる。

 両手を広げ、魔法力を一帯に充満させる。

 《不死の軍勢を》覆うほどに魔法力を行き渡らせると、イネスは言葉を紡ぐ。


「地点を結び、間を繋ぎ、汝らに存在の祝福を。帝国国家転移魔方陣――反転」


 イネスの内に秘めた膨大な魔力が、空気中に一気に四散。同時に、イネスの額に汗が滲む。


「《不死の軍勢》――進撃せよ」


 その、瞬間だった。

 ローグの後ろにいたスケルトン・ゾンビを始めとする《不死の軍勢》は、イネスの言葉と共に存在ごと消失した。


「各々兵力、持ち場に向かいました。帝国の張った転移魔法は効力を失い、我等が物に」


 膨大な魔力を一度に使用した事による魔力枯渇の息切れを隠そうと、努めて涼しい表情をしようとするイネス。


「よくやった、ここからは俺の出番だな」


 イネスがふらっと身体を揺らしたのを、ローグはゆっくりと抱え上げた。


「あ、ありがとう……ございます……」


「ん、気にするな」


『なぁ、主。それ(・・)、本当に飛べるのか?』


「……さぁな。でも、上手く飛べなきゃ俺たち終わるからな」


 帝国兵士達が隠し持っていた簡易転移魔方陣に、ローグはさっと魔法力を流したのだった。

 ローグ、イネス、ニーズヘッグの身体に、魔法力の糸が絡まっていく。

 粒子と共に、その姿は夜の暗闇から消えていき――。


○○○


「――お、ホントに帰って来れた」

『バルラ帝国とやらは、随分と高度な魔法を使えるようになったのだな』

「ローグ様のお手を煩わせずに帰還して頂こうという気概は、大いに評価できますね」


 3人が次に目を開けると、そこには血生臭い香りと、硝煙や魔法力の乱発によって空気中を浮遊する『魔素』が飛び回る、懐かしい空気に満ちあふれていた。


『派手にやっているではないか、くははははは』


 ふと辺りを見回せば、主な人影は二つだった。

 一つは、生命創世の混合魔法によって、つたに縛られ身動きを封じられた《ドレッド・ファイア》のラグルド、シノン。

 一つは、ローグ達の登場に呆気を取られて魔法力を練り込んだままのヴォイド・メルクール。


「ろ、ローグさん……!?」


 何故か涙を「ブワァァァッッ!!」と浮かべているラグルドに、ローグはすぐさま魔法力を練った。


「闇属性魔法、影の斬り裂き(リップ・シャドウ)


 唱えた瞬間に、ラグルドらを縛っていた蔦は、彼ら自身の影によって斬り裂かれていった。

 ローグは、ふとヴォイドの方を向いた。

 ヴォイドは、浅いため息を付きつつ呟いた。


「……どうも」


 大聖堂のミーティングルーム以来の再会だ。


「一応聞こう。これは、一体どういった了見だ」


 ローグの凍てつくような目線に、思わずヴォイドの額に汗が流れた。


「サルディア皇国に攻めてきていた亜人共の掃討のお手伝い――と、言った所で、どうやら信じてもらえそうにないでしょうね」


 シノンもラグルドも、縛りを解かれてへたへたとその場に座り込んでしまっていた。

 恐らく、精も根も尽き果てた中でヴォイドと次戦に突入しようとしていたのだろう。


「イネス、動けるなら二人を安全な所へ、ニーズヘッグはダルン地区全域の邪魔者共を掃討してくれ」


「無論、動けます!」


『生殺与奪は?』


「……任せよう」


『いつものように生け捕りとは命じぬのだな……くはははは、それも良いが』


 イネスが、ラグルドとシノンを抱える。

 ニーズヘッグが、最後に一仕事と言わんばかりに大きな翼をはためかせて飛び上がる。


「ろ、ローグ……さん!」


 ラグルドは、魔法力枯渇のために意識が朦朧とする中で、震える腕でローグに手を伸ばしていた。


 ――こ、こっちはこっちで何とか凌いでおくから、なるべく早く帰ってきてねローグさん!?


 あんな弱音を吐いていたラグルドが、こんなに困憊するまでに耐えてくれた。


「……格好良かったですよ、ラグルド先輩(・・)


 ローグのその言葉に、安心したかのような、そんな表情でラグルドは。

 いつものような頼りない笑顔で、静かに目を閉じていったのだった。

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