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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役は一人でいい! 短編まとめ

悪役は一人でいい! ~聖騎士の悲劇~

作者: A99

 聖騎士と呼ばれる男がいる。

 聖剣の勇者とも呼ばれるその男の名前は、セイヴァー・キース・ロードレッド。別世界では邪神を倒した救世主だが、この世界では覇王勇者イーリス・エル・カッツェが倒したため、勇者の一人として人々に知られている男である。

 魔物に襲われる人を助け、人に害をなす悪を成敗し、ただただ人々のためにその身を捧げる聖者。本人は聖剣ユートピアに導かれているだけだと言っているが、そんな彼だから聖剣は彼を選んだのだろう。

「彼女は何故……」

 放浪の身であるキースは、夜は野宿をすることが多い。よく晴れた、星々の輝きがよく見える大空の下、今日もまた焚き火をして、使い古したマントに身を包んで眠ろうとしていた。

 眠る前に、キースはよく考える。明日は誰を救えるのか、世界は良くなっているのか、聖剣の声は私をどこに導くのか。普段はそういったことを考えているのだが、最近はある一つのことが頭を離れなかった。

「彼女の強さは一体……」

 キースは思い出す。

 邪神討伐に赴いた時に見た、彼女のことを。

 キースは一足遅れてしまった。キースが邪神を討伐する前に、覇王勇者が邪神を消滅させていた。

 そのことをキースは気にしていない。被害が出る前に邪神が消滅してよかったと思っているくらいだ。キースが気にしているのは別のことだ。

 覇王勇者とともにいた彼女。喜々として邪神に突撃し、邪神もろとも覇王勇者に吹き飛ばされた彼女。キースはその瞬間彼女が死んだと思ったのだが、覇王勇者の攻撃は彼女の服を吹き飛ばしただけで、彼女自身は無邪気に覇王勇者に纏わりついていた。

 か弱い少女に見えた彼女が何故、覇王勇者の攻撃に耐えることができたのか。

 そもそも、何故彼女は邪神に突撃したのか。もしかしたら、覇王勇者の攻撃から邪神を庇おうとしたのではないだろうか。

 キースは考える。情報が足りないため、考えるしかない。あらゆる可能性を考え、彼女についての疑問に決着をつける。

 それが正しいのかを保証してくれる人間はいない。聖人とも呼べるほど善良な人間のキースだが、キースは単独で行動をすることが多い。聖剣が導くため、一人でも十分なのだ。だが、そのためにキースは一人で結論付ける癖がついてしまっていた。

 そして、今回もキースは一人で結論付けてしまったのだ。

 即ち、彼女は、邪神に操られていたのではないか、という考えを。

 邪神から力をもらっていたため、彼女は覇王勇者の攻撃に耐えることができたのだ。覇王勇者に纏わりついていたのは、邪神から解放された喜びからだ。

 再度言うが、その考えを保証する人間はいない。だが、キースの中ではそれは事実として認識されてしまった。

 そのため、キースは思ってしまった。見極める必要があると。彼女は真に邪神から解放されたのか、確かめる必要があると。

 キースの思考は止まらない。

 解放されたならそれで良し。解放されていなければ、聖剣の力で邪神の影響を浄化する。

 ともかく一度見てみるべきだ。

 目指すはバハームド王国の魔法学園。そこに、覇王勇者と目的の彼女がいる。

 キースの目的である彼女。その名前は、アリス・イル・ワンドといった。

 

 ◆

 

「壱の型・貫!」

「ザクッ!」

「弐の型・乱!」

「グフッ!」

「参の型・空!」

「ドムッ!」

 魔法学園の中庭に掛け声が響く。生徒たちはその声をBGMに、話の花を咲かせている。気になるだろうと思う人もいるかもしれないが、確かに最初は生徒たちも気にしていた。だが、一ヶ月もすれば生徒たちも慣れてしまった。

 中庭で型の鍛錬をしているのは、悪役令嬢を目指す覇王勇者イーリス・エル・カッツェその人である。彼女の知り合いのシノビマスターに習った型を復習しているのだ。

 シノビは潜入のスペシャリスト。あらゆる場所に潜入し、必要とあらば痕跡も残さずに相手を殺す。

 故にその技術は全てが一撃必殺。無手であろうと、その拳は名刀にも勝る必殺の刃。誇りある悪役として、様々な鬼畜外道を相手にするイーリスにとって、その技術はとてもありがたいものだった。

 そのため鍛錬を重ね、一刻も早く自分の技として馴染むようにしているのだ。神剣は強力だが、それだけに頼っていては三流である。真の達人は目で殺す。その域に達するために、イーリスは日々精進を重ねているのだ。

「そろそろいい時間ですわね。アリスさん、ありがとうですわ」

「こちらこそありがとうございます!」

 イーリスの鍛錬の相手をしていたのは、愛に生きる少女アリス・イル・ワンドである。愛の力で無限の耐久力を持つアリスは、イーリスの鍛錬の相手――ほぼサンドバッグであるが、アリスにとってはご褒美だ――を務めることが多い。

 鍛錬を終えた数秒後、午後の授業の開始を告げる鐘がなった。悪役令嬢を目指しているイーリスだが、授業には真面目に出ている。知識は全ての基本となる。悪を成すにも正義を成すにも、知識は必ず必要となるのだ。

「ああ、ここにいたね。イーリス、お客さんだ」

「言葉をかわすのははじめてですね、覇王勇者様」

 だが、今日は授業を受けるのはおあずけになるだろう。婚約者にして、この国の王子であるカイル・エル・バハームドが客を連れてきたのだ。

 珍しいと思いつつ、イーリスは顔を向ける。イーリスを訪ねる人間は、直接やって来ることが多いのだ。大抵はイーリスが何をしていようと関係なく前触れもなくやってきて、一方的に用件を告げて去っていく迷惑な輩ばかりである。

 そうでないとすると、イーリスと面識のない人間が訪ねてきたのだ。きちんと応対するべく貴族令嬢としての姿を作り、カイルが連れてきた客を見て、イーリスは驚愕を露わにした。貴族令嬢として失格そのものな姿だが、仕方がない。それほどの驚きだったのだ。イーリスは彼を何度か見かけたことがあったが、まさかこうして訪ねてくるとは思わなかったのだ。

 現れたのは、当初は美しかったのだろうが、長い旅で汚れてしまった白銀の鎧を身に着け、腰には見窄らしい鎧とは不釣り合いなほど美しい剣を帯びた男だった。

 その剣の名前は、聖剣ユートピア。その男は、放浪の聖騎士セイヴァー・キース・ロードレッド。カイルは、聖剣の勇者を連れてきたのだ。

 聖騎士であるキースが用事もなく来るわけがない。何の用事かとイーリスは少し考えたが、思い当たる節はなかった。カイルを見ても、無言で頭を横に振るだけだ。そもそもアリスはキースと面識がないため、確認するまでもない。

「はじめましてですわね、聖剣の勇者様。ご存知だと思いますが、ワタクシがイーリス・エル・カッツェですわ」

「はじめまして、イーリス様。僕はセイヴァー・キース・ロードレッド。一応、聖剣ユートピアに選ばれた勇者をやらせてもらっている。お会いできて光栄だ」

「こちらこそ、お会いできて嬉しいですわ」

 和やかに言葉をかわし、二人は握手をする。勇者同士が会談をするという歴史的な出来事だが、残念ながらこれを見ているのはアリスとカイルしかいない。周囲に貴族達がいれば、喜ばしいことだと拍手をしたことだろう。イーリスの現実を知っている教師や生徒たちであれば、不安そうに見つめるだけであろうが。

 笑顔のまま二人はしばし談笑をして、カイルとアリスはその様子をヤキモキしながら見守る。

 イーリスとキースは、どちらも勇者なのだ。総じて勇者というものは厄介事に巻き込まれる運命にあり、そんな世界に選ばれし勇者が会うということは、何が起きてもおかしくないということである。はたしてイーリスがどんな厄介事に巻き込まれるのか、二人は心配でならない。

 まあ、厄介事に巻き込まれたとしても、イーリスは高笑いしながら吹き飛ばすだろう。二人の危惧している事態が起きる可能性は、限りなく低いのだ。様々な世界の神々が本気でイーリスを殺すべくやって来たら話は別だが、そんなことは万に一つもないだろう。

「さて、時間も限られています。そろそろ本題に入りたいのですが、良い場所はありませんか? 人の来ない場所が良いのですが」

 楽しいお喋りもここまでだ。先程までの和やかな様子から一転して、瞳を鋭くしたキースがイーリスに問う。

「あら、ならばここで十分ですわ。今はもう授業の時間。生徒が来ることもありませんわ」

「ですが、誰かに聞かれる可能性が……」

「それもご心配なく。アリスさん」

「はい! イーリス様!」

 キースの目的であった少女の名前を聞き、キースはチラリとアリスを見た。

 イーリスが指を鳴らし、アリスが元気よく返事をする。そして、キースが聞き取れないほど高速でアリスが何かを詠唱すると、その瞬間一帯の空気が一変した。

 何を唱えたのかは、キースにはわからなかった。だが、これが恐ろしく高度な結界の一種であることはわかった。この結界の中は、もはや一つの世界と言ってもいい。通常の手段では、外部から結界の中に影響を与えることはできないだろう。次元や世界を超えるレベルでなければ、この結界を抜けることはできない。

 まさか閉じ込められたか。キースは思ったが、しかしのんきそうなアリスの様子を見れば、そんな思いも失せてしまった。

「これが私のラブ・ラビリンス! 愛の前に不可能はなし! いずれイーリス様と永遠にここで……」

「その未来は永遠にありませんわ」

「そ、そんな……」

 結界の名前はどうあれ、この場の四人は外の世界と隔離されたのだ。四人が外の世界に影響を与えることも、外から影響を受けることもなくなったのだ。

 勇者や大賢者がこの結界を作り出したならば、キースは感嘆しただろう。流石だと脱帽し、相手を褒め称えたことだろう。だが、この結界を作り出したのはただの少女にしか見えないアリスである。そんな少女がどうしてこんな結界を作ることができるだろうか。

 キースにしてみれば、理解不能であった。

 覇王勇者であるイーリスを恋慕しているようにしか見えない少女なのに、キースでもできないであろう奇跡に等しい技を軽くやってのける。何故、こんな少女が今まで無名だったのだろうか。

 まさかキースも、アリスが愛だけで日々強くなっているとは夢にも思わない。普通はそんなこと想像もできないだろう。

 だからこそ、キースはアリスを訝しむ。危険視する。邪神に突撃したのは、やはり邪神を守るためではないか。

 真実と全くかけ離れている考えだが、キースにとってそれは真実にしか思えなかった。聖剣や神剣などを持たずに、大賢者に匹敵する結界を作り出せるとは思えない。イーリスの攻撃を無傷で生き残れるとは思えない。

 しかし、状況がその考えを否定する。

 キースがどれだけアリスを見ても、アリスから穢れた気配は感じない。邪神の残り香は感じない。

 キースほど経験豊富な勇者であれば、いかに邪神といえど完全にその気配を隠し切ることは不可能だ。それこそ結界に閉じこもっていれば話は別だが、今はキースもアリスも同じ場所にいる。

 ここでキースの判断を間違わせたのは、キースが今まで単独で行動してきたという事実であった。即ち、キースは自らの実力を過小評価してしまったのだ。

 自らに潜んでいる邪神を、イーリスが気づかないほどのレベルで高度に隠蔽していると、キースは判断してしまったのだ。

 キースの実力を、同じ勇者であるイーリスは高く評価している。イーリスがキースの考えを聞けば、一笑に付すことだろう。もっとも、残念ながらキースが自らの考えを話すことはないのだが。

「それで、本題は何ですの?」

「単刀直入に言おう。隣の少女を浄化させてほしい」

「え?」

 キースが切り出したのは、浄化の提案だった。浄化することで、アリスが救われるとキースは考えている。聖剣でアリスを浄化することで、今度こそ邪神を滅ぼし尽くすことができると、キースは思っている。

 しかし、イーリスとアリスにしてみればそれはお門違いも甚だしい。邪神はイーリスが滅ぼし尽くした。魂も完全に粉砕し、二度と復活できないように消滅させた。

 アリスが邪神に突っ込んだのは、愛ゆえに他ならない。イーリスの攻撃を受けることで、アリスはイーリスからの愛を受け取っている(と本人は思っている)のだ。

 それ故のすれ違い。それ故の認識違い。邪神が隠れていると思うキースと、邪神を滅ぼしたと思うイーリス。それが、この悲劇を生んだのだった。

「仰っている意味がよくわかりませんわ」

「いきなりのことで混乱しているのもわかる。だが、信じて欲しい。彼女を救うには、浄化するしかないんだ」

「だから、言っている意味がわかりませんわ」

「気づけないほど高度に潜んでいるんだ。でなければ彼女がこんな結界を作れるはずがないだろう。きっと奴が力を貸しているに違いない」

「キース様、それは愛の力の賜物です! イーリス様への愛がわたしを強くしているんです!」

「信じられるわけがないだろう!」

 残念ながら事実である。アリスはイーリスへの愛によって理解不能なレベルで強くなっている。

 問答を重ねるも、いつまでも平行線。互いに思っていることが違うため、話が全く噛み合わない。そもそもキースの説明も足りておらず、更にキースは浄化させろの一辺倒。イーリスでなくとも、理解できる人はいないだろう。

 そうして続けること約一分。二人の問答を聞いていて、ようやくカイルだけがキースの言いたいことを理解した。当然、お互いのすれ違いもだ。ようやく理解したカイルが動き出したが、既に時は遅かった。

「言い争う時間ももったいない! 後で治療はさせていただくため、許してほしい!」

 キースが暴挙に出たのだ。

 聖剣を抜き、凄まじい速さでアリスへと突進。その勢いでアリスの胸に聖剣を突き出したのだ。

 何だかんだ言っても、キースの目にはイーリスがアリスのことを気に入っているように見えた。ならば、アリスを守るためにイーリスが動くだろうとキースは思っていたが、イーリスはそれを見ているだけで止める様子がない。アリスは驚きの表情で硬直しているだけで、避けようとも守ろうともしていない。

 そんなアリスを見て、ただの少女かとキースは後悔し、それでも動きは止めなかった。力を手に入れただけの少女でも、邪神によって手に入れた力だ。後悔している間にも、邪神は力を取り戻しつつあるかもしれないのだ。

 もちろん、全てキースの勘違いである。

 時間にしてコンマ一秒にも満たない閃光の突き。キースの聖剣はアリスの胸の中心に触れ――。

 キィン、と。

 甲高い音を立てて、聖剣ユートピアは永遠に失われた。

 残ったのは聖剣の成れの果て。真っ二つに折れて半分ほどの長さになった刀身と、呆然としたキースが持つ泣き別れした哀れな元聖剣の柄。

 邪神を貫いたのであれば、聖剣が折れることはない。聖人たちの祈りの形である聖剣ユートピアは、あらゆる邪悪なるものに対して絶大な効果を発揮する。

 聖人の祈りや、無垢なる愛。聖剣に秘められた祈りをも上回るそれらだけが、聖剣を折ることができるのだ。聖なるものに聖剣を向けることはできないために。

 これが意味することはただ一つ。聖人たちの祈りの結晶は、アリスという一人の少女が持つ埒外な愛に負けたのだった。

 

 ◆

 

「なんて無様。僕は世界一の大馬鹿者だ。聖剣ユートピアに導かれた歴代の勇者たちも、腹を抱えて笑っていることだろうな」

 呟き、キースは周囲を見回した。そこははじめて来た場所だったが、キースの知識の中にその場所の名前は存在した。勇者として、決して忘れてはならない場所だからだ。

 知っている場所に辿り着いたものの、どこをどう歩いたのか、実はキースは覚えていない。

 気がついたら、キースはイーリスが魔王を倒した決戦の地に辿り着いていた。

 あの後のことは、辛うじて覚えている。しばし呆然とした後、結界が解除された瞬間にキースは逃げ出していた。わけの分からない叫びを発しながら、街の中を、街道を、平野を、山を、荒野を、砂漠を、道なき道をどこまでもどこまでも、発狂しながら走り続けた。

 そうして辿り着いたのが、勇者と魔王の大決戦の跡地だ。神気と邪気が混じり合い、混沌とした魔力が一帯を支配している終わりの大地である。。

 簡潔に言うと、地獄である。見た目はただの平原だというのに、動物も、魔獣も、魔物も、一切姿を見せないのだ。

 静寂だけが支配する混沌の地。風は混沌のせいでデタラメに動き回り、規則性の欠片もない。

 そう、混沌とはあらゆる法則を無秩序に乱すのだ。

 世界の法則など知ったことかとばかりに、全てが無秩序に動き回る。ここにネズミでも放置したならば、キメラのように何もかもが混じり合った何かが生まれるだろう。

 原初の地獄。最初の混沌。世界の始まりとは、おそらくこのような場所だったのだろう。

 キースがまともでいられるのは、キース自身が持つ聖の魔力で自分を守っているからである。だが、それも長くは続かない。一日か二日、その程度滞在しているだけで、キースは別の何かになってしまうだろう。

 聖剣を折られて発狂し、失意のままに走り回り、気がついたら地獄に辿り着いていた。落ち着いた今だからわかるが、全ては自分の勘違いだったのだろうとキースは理解していた。一人で思い込み、相手の言葉を聞くことなく突っ走った結果、全てを失ったのである。

 全くもって笑える結末だ。勘違いした愚か者には相応しい末路である。

 そして誘われるように辿り着いた決戦の地。そこにそびえ立つのは、禍々しい魔界門。命を冒涜するようなその門は、魔王が人間界に来る際に使用したものらしい。

 魔王を倒しても消えることのなかった魔界門は、魔王を倒した後は全てを拒むように閉じきってしまったらしい。だが、どういうわけか、今だけは魔界門は全開であった。

 次の主を受け入れるように。

「誘っているというわけか……」

 聖剣を折ってしまった愚かな勇者を迎え入れるなど、何とも酔狂な門である。

「所詮僕は愚かな勇者。厄介者を入れようと言うんだ。乗ってあげようじゃないか」

 勇者としてのキースが魔界に入るべきではないと警告するも、愚か者としてのキースがそれを打ち消した。愚か者はどこにいっても愚か者だ。場所が変わった程度で、馬鹿は治らないのだ。

「聖騎士でない僕には、何の価値もないのだろうに」

 聖剣を折ってしまった僕には、この世界の居場所はない。そう考えたキースは、喜んでこの世界を旅立つ決意をした。

 キースを歓迎するように開いていた魔界門。それに吸い寄せられるように、フラフラとキースは足を踏み入れる。

 キースが完全に門の中に足を踏み入れた数秒後。魔界門は大きな音を立てて、門を閉じたのだった。

 そして、まるで蜃気楼のように魔界門は姿を消し、二度と現れることはなかった。

 後に残ったのは、相変わらず混沌が支配する平原だけであった。

 

 その後、人間界でセイヴァー・キース・ロードレッドと名乗る男を見た者はいない。

 放浪の聖騎士は、歴史から永遠に姿を消したのだった。

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[良い点] 勇者という名の脳筋
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