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魔王で始める異世界侵略。  作者: 久我わかなり
第1章「魔の巣食う世界」
8/16

ep.1「流転するリインカーネーション(7)」

 




「────────ここ、は」




「ディンブル城下町。端的に言えば、魔族の住む町です」





 樹が目覚めた城、山の頂上付近にあるディンブル城から降りた場所にある町へとやってきた樹は、眼前に広がる光景を見て、素直に驚いた。



 二足歩行のワニのような生物がいた。猿のような姿勢で、鬼のような赤い肌の生物がいた。見てくれはほとんど人間と同じではあるが、ユースのように体の部位にそれぞれ特徴がある生物がいた。他にも様々、樹が元いた世界で見たことのあるような生物と同様、或いは見たこともないような生物が町を闊歩していた。


 そして何より、その生物たちは人語を話していた。


 そして何より、そこには────────。






「人、間……?なんで、こんなところに人間が……?」






 樹は1日前、クーガリアという街を見た。

 静かで、穏やかで、誰もが夢に見た海外そのものというような、整然とした雰囲気があったが、同時に底知れない寂しさを感じるような……光が弱まった電灯のような、半死半生の静けさを持った街だった。


 しかし、この町は違う。

 騒々しい活気と精力に満ち溢れ、行き交う人々の顔には笑顔が浮かんでいた。街並み自体はクーガリアと差はない。しかしこの町は生きていた。息づいていた。楽しそうな、愉快そうな、そんな空気を感じさせる町だ。


 そしてそこに、ごく自然に人間が加わっていたのだ

 魔族と対立しているはずの、人間が。







「外世界の中にも、種族による差別がありましたね。しかし、種族の違いに関わらず、人間は全て平等であると説く人も多くいたと存じています。……同じことです。現世界の人間の中にも、()()()()()()()()()()()()()()と、そう感じるものが居るというだけの話なのです」




「だって、待てよ、魔族と人間は対立してるんじゃなかったのか!?100年前に戦争をして、今は停戦協定を結んでても、お互い歩み寄れないくらい……」




「私も、貴方様が先日会話していたアリスという少女も、『対立している』などとは口にしておりません。100年前戦争があったことは事実です。だからと言って、魔族と人とが今でも対立しているというのは勘違いです。目の前にあるものが、その現実です」





 ワニ頭の魔族は、人間の商人から果物を買っていた。

 鬼のような魔族は、人間の男と楽しげに話していた。

 エルフの少年は、人間の女と手を繋いで歩いていた。


 目の前に広がる光景に、対立関係など欠片程もない。

 ここには生活があった。営みがあった。

 魔族と人間が共存する、ひとつの世界があった。






「貴方様は、魔族というものをどう思っていましたか?」




「…………人間を滅ぼすとか、支配するとか、そんなことを考える連中。人間以上の力を持ってて、それを人間を虐げるために使うような、そんな種族だって、思ってた」




「人間より優れているという点は否定しません。ですが彼らは、私たちは、人を支配しようなどとは微塵も考えておりません」




「じゃあ、何を………」




「同じです」






 リオンの視線は、樹と同様町に向いていた。

 やがて、魔族と人間、その双方が手を取り合う様を見て、楽しそうに、柔らかな笑みを浮かべた。






「私たちは、()()()()()()だけなのです。人間と同じです。争いごともなく、仲違うこともなく、ただ穏便に、平和に生きたいだけなのです。願わくば、人間と手を取り合いながら、共に歩んでいきたいと、そう思っているだけなのです」




「……………」




「私たちが欲しているのは、魔族と人間との架け橋です。魔族と人間とを繋ぐ、強い縁を欲しています。二度と争わないよう、双方を強く結びつけられるような、強固な縁を」




「……………もう、いい」




「端的に言えば、それが"魔王"としての役目なのです。魔王であり、人間である貴方様であればきっと………」




「だから、もういい!皆まで言うな!」






 語気を強めて、樹は頭を抱えながら、続ける。






「話はわかった。納得した。だからって、俺が魔王になれるかどうかなんて別問題だ。俺なんかが、」




「できます」




「…………そう言い切れる、確信でもあんのかよ」




「いいえ」




「『図書館』とやらには、未来の記録まで載ってんのか?」




「いいえ」




「なら、確信もないのになんで言い切れる?」




「確信はありません。ですが、私は貴方様に"期待"しているだけです。貴方様ならきっと、と。きっと貴方様は、魔族と人間を結ぶために、この世界に選ばれたのです」




「…………そんなの、ただの偶然だろ」




「……運命に偶然はない。奇跡という必然があるだけだ」




「っ!」




「哲学者である、貴方様のお祖父様の言葉でしたね」




「…………ズルいな、アカシックレコードってやつは」






 ガシガシと、荒っぽく頭を掻いて、

 樹は今一度目の前に広がる光景を見る。






「言っておくけど、無理な期待はするなよ」




「はい」




「政治だとか経済だとか、そんなのわかんないからな」




「はい」




「俺ひとりじゃ、絶対無理だからな」




「初めてお会いした時、言いました。

……我が身の全ては、王たる貴方様のために」







 呆れたように樹は笑って、大きく体を伸ばす。青く広がる晴天を見上げながら、意気揚々と、自身を鼓舞するように、告げた。







「まぁ、やってみる価値はある……か」







 魔族と人間。ふたつの種族の関係を知り、この世界のひとつの真実を知った樹は、活気づく町に向けて歩き出す。人間として。────────そして、魔王として。





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