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魔王で始める異世界侵略。  作者: 久我わかなり
第1章「魔の巣食う世界」
3/16

ep.1「流転するリインカーネーション(2)」

 





 まおう、マオウ、魔王?

 魔王と言ったのだろうか、彼女は。

 魔王になれと、そう言ったのだろうか。






「貴方様の魂は、先代様と程近い魂だったために召喚致しました。あらゆる命に宿る魂は色を……オーラと言い換えてもいいでしょう。魂というものには、須らく固有のオーラのようなものを纏っており、貴方様の魂のオーラは、先代魔王のものと同質のものだった。『近い』と称したのはそういった意味合いで────────」






 そもそもの話、死んだ覚えなどないのに、なぜ死んでこんな世界に召喚されたのか。いつも通り学校に行って、放課後は役者の稽古をして、家に帰ってご飯を食べて風呂に入って寝て、いつも通りに過ごしていただけだ。

 事故にあった記憶も、病で倒れた記憶も、自分で自分を手にかけた記憶も、死ぬほどの痛みを感じた記憶だってない。






「なんだ、これ、」






 体中を迸る熱のような痛みも、体が冷え切っていく感覚も、胸元から溢れ出る真っ赤な血も、酸素が肺から失われていく焦燥感も、なにひとつとして覚えなどない。


()()()()()()()()()()()()()






「なんだよ、これ……!!」





 心臓が跳ねる。

 それはデジャヴのような既視感だった。覚えなどない。しかし識っている。この体に、絶命の感覚が刻み込まれている。体が震える。冷や汗が止まらない。言い知れない不安が、頭の底から湧き上がり、血液を通して全身に巡っていくような不快感があった。



 天羽樹は死んだ。

 その事実だけが胸の奥に突き刺さっていた。






「………記憶の混濁、いえ、氾濫というほうが正しいでしょうか。覚えていないはずのことを識っている。その感覚に、頭と心が追いついていないのでしょう」




「……なんでわかるんだ、そんなの」




「……………私も、同じような体験をしていますから」






 そう言って、寂しそうな表情を浮かべた少女は、ぺたりぺたりと裸足で高級そうな絨毯を歩いて近づいてくる。


 そして、柔らかに包むように、樹の震える手を握った。






「落ち着いてください。心配せずとも、貴方様が知りたいことは全て説明致します。その為に私がいます。────────我が身の全ては、王たる貴方様の為に」







 そんな、現実離れした言葉で樹の心は現実に帰ってくる。息を吸い、ゆっくりと吐く。酸素が脳へと渡り、頭が鮮明になっていくのを感じる。


 目の前の少女の目を見据え、樹は静かに言う。






「……とりあえず、自己紹介からお願いできる?」







 *********************






 長く伸びた真っ白な髪、ところどころが灰を被ったように黒ずんで、裾は焦げたようにボロボロな白いドレスを身につけているが、不思議と汚らしいと感じない。むしろ、どこか美しいとさえ感じてしまうような、妙な妖艶さがあった。


 ぺたぺたと生々しい音を鳴らす、豪奢なドレスには似つかわしくない裸足に対して、令嬢のような品のある立ち振る舞いや言葉遣い。そして何より目を引くのは、金色の眼。


 美しいという言葉が人の姿で出てきたかのような美貌を持った、金色の眼をした白い少女。それが彼女、






「リオン、と、そうお呼びください」




「リオン、リオンね。覚えた。さっきはありがとう。俺はイツキ。天羽樹だ。よろしく、リオン。……えっと、リオンって、呼び捨てでいいのかな?」




「お好きに呼んで構いません。年齢で言えば、貴方様よりも歳下になりますから」




「……そっか、じゃあまぁ、リオン。さっそくだけど、色々教えて欲しい。答えられる範囲でいいから、この世界のこと、俺を召喚した理由、それと、さっきの魔王になれって言葉の意味。ゆっくりでいい、時間をかけてもいいから、全部教えてくれ」






 樹がそう言うと、リオンと名乗る少女は金色の眼をまんまるにして驚いている様子だった。






「………あれ、俺なんか変なこと言った…?」




「………いえ、申し訳ありません。もうしばらくは、動揺するものかと思っていたものですから。貴方様があまりにも落ち着いていたので」




「まぁ、生前……って言うのも変だけど、生きてた頃の賜物というかなんというか。俺、ちょっと役者の仕事とかをやってたからさ、急なオーダーとか要求とか、そうゆうのには少し慣れてるってだけ。……さすがに、まだ色々と納得は出来てないけど」




「……そうですか。承知いたしました。ではまず、貴方様の現状からお話しさせていただきます。先程申し上げました通り、現在ここにいる貴方様は、生前の貴方様と同一と考えてもらって構いません。そちらの世界で言うところの複製人間、クローンのようなものではなく、あの世界で生きていた貴方様が、そのままこちらの世界に転移している。そう思っていただければと」




「異世界転生ってよりも、異世界転移って方が正しいのかな。詳しい垣根は俺もわかんないけどさ。アニメとか、ラノベとか、そうゆうのでよく見る神様が転生させたってわけじゃないんだな?特別な力を授かったとか、そうゆうのもなし?」




「そうですね。紛れもなく貴方様は私が召喚いたしました。他の存在が干渉されたとは思えません。そちらの世界の作品ではよくある、神の手違いや気まぐれによっての転生ではございません」




「なるほど………っていうかアニメとかラノベとかわかるのな……」




「加えて、貴方様に特別な力が宿っているかという話ですが。端的に申し上げますと、現在の貴方様は不死の身となっております」




「……………………ふしのみ?」




「不滅の命、と言えばわかりやすいでしょうか。貴方様に宿る力は"不死の魂(アンデッド)"。今の貴方様の体は、決して朽ちない不滅の命となっております。……なんでしたら、試してみますか?」




「試さないからね!?」







 くすくすと笑うリオン。


 不思議な格好。目も覚めるような美貌。無感情なようでいながらも、人並みの冗談を言えて、おまけに何故か、彼女にとっての異世界の文化のことも知っている。怪しいと思いながらも、なぜか彼女が悪人には思えないのは、きっと、たぶん、自分の心の緩さ……温さのせいなのだろうと、樹は思った。


どんな人間でも、美少女には弱いのが、世の常である。







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