ep.1「流転するリインカーネーション(1)」
「……………ん、」
目を覚ますと、見えたのは知らない天井だった。
石造りの天井、石造りの壁、ちらほらと見える豪奢な装飾。見覚えがある……というのは語弊があるだろうか。実際に見たことはないが、本やアニメや映画で、同じようなものを見たことがある。そうだ、ここは………
「………………城?」
「お目覚めですか」
突然の声に心臓が跳ね上がる。
視線を下ろすと、そこには美少女がいた。
「………目を覚ますと知らない天井、目の前には美少女………もしかして俺、本当に異世界に転生してる……!?あ、いや、もしかしてそれともここ天国だったりする?それとも地獄?それとも、異世界に転生する前の神様の部屋的な?」
「意識は安定している様子ですね。安心致しました。質問にお答えするのであれば、ここは貴方様の仰る通り、貴方様から見れば異世界ということになります。転生……というのとは、少し意味合いが異なりますが」
「ど、どうゆうことですかね……?」
「貴方様の死後、その魂をこの世界に召喚し、魂を元に死の直前の状態で肉体を形成し直しました。ですので、貴方様が考える"転生"とは、僅かながら意味合いが異なるかと」
「召、還……………ま、まぁ、異世界に来たのは変わりないし、これで──────あれ、ちょっと待って」
素朴な疑問が頭に浮かぶ。至極真っ当な、というよりも、何よりも先に思い浮かぶべき疑問だったはずだ。目が覚めてから、一度も思い浮かばなかったのが不思議なくらいだ。
「────────俺、なんで死んでるんだ……?」
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天羽 樹。17歳。高校生。
引きこもりだったわけでも、不登校だったわけでもなく、ただの平凡な高校生。周りと少し違うところといえば、『役者見習い』だったということくらいだ。
小さな頃、特撮のヒーローに憧れて役者の道を志し、人助けをモットーにしながらその道を少しずつ歩んでいった。それくらいが取り柄の、ただの高校生だった。
家族に囲まれて、友人も沢山居て、役者仲間も居て、"正義"を信じて生きていた。特別なことはなくとも、平和な生活をしていたはずだ。
ゲームが好きで、アニメが好きで、本が好きで、ドラマが好きで、何よりも、正義のヒーローが大好きで。
「………覚えてる、」
樹は自分が生きていた世界でのことを思い出す。家族のこと、友人のこと、過ごしていた日常のこと、思い出のこと、自分自身のこと。その全てが、今もなお鮮明に思い出せる。
「全部、全部覚えてる!!なのに、なんで死んだ時のことだけ思い出せないんだ………!?」
目の前の少女に視線を寄越す。
「……召喚による弊害を疑っているのでしょうか。失礼ながら、貴方様が過去のことを少しでも思い出せるのであれば、召喚による弊害というのはあり得ません。その肉体は、魂に刻まれた記録をそのままに作り出されたもの。死の直前の貴方様の肉体と記憶、その全てが今ここに居る貴方様と同一であり………つまり、貴方様の死の記憶は、絶命する時点で喪われていたということになります」
なんだそれは、と思った。
自分が何故死んだのかすら思い出せないのも、それを知ってか知らずか、手前勝手に転生させられたなど馬鹿げている。納得がいかない。自分が事故で死んだのかも、病気で死んだのかも、誰かを助けて死んだのか、それとも身勝手に死んだのかすらわからないなど、納得できるわけもない。
「どうなってんだ……なんで俺は死んでんだ……?それに、アンタはなんで俺を転生させたんだ。なんで俺が選ばれた?……まさか、アンタが全部仕組んで……!!」
「あらゆる魂を選定し、その中でも一番"近い"魂を選んだ結果が貴方様です。私が貴方様を認識したのは貴方様の死後であり、貴方様の記憶の欠落自体、私が知り得ることではありませんでした。そもそもとして、"別の位相"に居た貴方様に手を加えることなどできません」
「近い……"位相"……?アンタなに言って…………」
冷ややかな表情をした少女は息を吐き、これから先の、永く続く天羽樹の未来を宣告する。
「端的に申し上げますと、
これより貴方様には、"魔王"になっていただきます」
「…………………………………………は?」




