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魔王で始める異世界侵略。  作者: 久我わかなり
第1章「魔の巣食う世界」
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ep.2「純血のミックスブラッド(4)」

 




「はじめまして、イツキくん。アリスから話は聞いているよ。私はカイルだ、よろしく」




「ああ、よろしくカイル」







 茶髪の癖っ毛を伸ばした眼鏡の成人男性、カイルと固い握手を交わす。学帽までは被っていないが、民族衣装じみたアカデミックドレスを纏っている様相はいかにもという感じがした。


 カイルはこの国の外交官を担う若者だ。見聞と知識に長け、礼節をしっかりと重んじているために、若くして外交官という立場になった。

 本人は『まだ早い』と謙遜しているが、彼が外交官になってからはクーガリアの交易や他国との関係も良好なものになり、彼が魔族との停戦を締結させる際に、国王の反感を買いはしてもその立場を降ろされなかったのは、偏に彼の実力と人望があってのものだった。



 そんな事を誇らしげに話すアリスの声をなんとなく頭に染み込ませつつ、ふと疑問に思った事を口に出す。






「話は聞いてるって言ってたけど、いつの間に聞いてたんだ?アリスは昼間からほとんどずっと俺につきっきりだったけど。俺が国王と飯食ってる間も外で待ってたみたいだし」




「君たちがここにくる途中で"言霊石"から話を聞いていたんだよ」




「…………コトダマセキ?」




「なんだイツキ、知らないのか?特殊な魔力を発するこの石と同じ魔力の波長にした石を通じて念話ができる道具だ。結構一般的な道具だと思うのだが……」




「いや、俺のいた国はそういうのに疎くて………なるほど、要するに魔力版の携帯みたいなもんか……電波や電気がない代わりに魔力を媒介にしてるのって感じかね………魔力ってのは思ってたより便利だな」




「なんだ?ブツブツと独り言を」




「い、いやなんでもないなんでもない。それより話を進めよう。カイルの後ろのそっちの人たちは?」







 見れば、カイルの後ろにはそそくさと身を隠すようにしている少年少女がいた。少年の方は樹と同い年くらいで、少女の方は少し幼い、体躯的には10歳前後といったところだ。







「………はじめまして、僕はロシュ」




「………わたし、フィニス」




「はじめまして、俺はイツキだ。……この子らは、カイルの弟さんか何か?」




「いや、現国王のご子息……つまり王子と姫だよ」







 そんな言葉に、思わず面を喰らう。







「…………アリス?まさか俺たち、罠にハメられたとかないよね?ないよね?」




「疑うのも無理はない……というのは失礼か。ロシュとフィニスも立派な共存派だ。国王の……父のやり方を近くで見ていたからこそ、そのやり方に異を唱えようとしているんだ」




「父はあんなですから、そう思われるのも仕方ないと思います………けれど僕は、本当に魔族の方たちとわかり合いたいって思ってるんです。……………それが、僕にできる一番の恩返しだと思うから」




「…………恩?」







 その疑問を口に出す前に、カイルが手を打って遮った。







「積もる話は後にしよう、時間もないし。今はとにかく互いの情報を共有しようじゃないか。イツキくん、君が見て、聞いてきた魔族のことに関してをできる限り詳しく教えてくれ。僕らが知らない事もあるかもしれないしね」




「………わかった」







 *********************







 滔々と、樹は魔族の話を進めていた。




 職業柄か、はたまたただの血筋か。樹が自負している特技のひとつに、『一目一声で人となりを判断できる』というものがある。


 話す相手の視線の動き、話し方、身振り手振りなどなど。視覚と聴覚から得られる情報を統合して、相手の性格や虚実を大まかに察することができるという、人によっては持っていて当たり前とも言える特技だ。


 しかし、樹はそこから得られる直感的なものを疑わない。祖父の『直感ほど恐ろしいものはない』という言葉を信じているというのもあるが、1番の理由は自身のその直感が外れたことが一度もないからである。




 故に、樹は胸を撫で下ろす。アリスから聞いた情報だけではいまいち懐疑的であったが、会って話してようやく確信できた。


 このカイルという青年は、間違いなく本物だ。

 本心から、魔族との共存を望んでいる。







「(共存派を偽ってなんか企んでたりしたらどうしようかと思ったけど、大丈夫ってことでよさそうだな……ロシュって子もフィニスって子も大丈夫そうだ)」




 

 

 現状この場にいるのはイツキ含めて5人。この場にいる者は皆大丈夫だと腹を括って、樹はゆったりした様子で続きを話し始める。







「……それと、これはアリスにもまだ話してないことだけど………今のディンブルに、新しい王様が即位したらしい」




「……!?」




「……その新しい魔王は、どういった方なのかな?」




「あくまで噂程度にしか聞いてないけど、少なくとも、人間をどうこうって考えはないらしい。むしろ、人間と友好でありたいと思ってるとか、なんとか」







 樹の声を聞いて、初めてアリスがその目を輝かせる。相変わらず笑顔は浮かべないが。







「カイル……!!」




「ああ!ようやく、ようやくこの時がきてくれた……!」




「この時って?」




「魔族との停戦を結んだのは王の従者を名乗る少女と……魔族の中ではナンバーツーに当たる者と結んだものだったんだ。王と直々に話ができるよう懇願したのだけれど、どうやら随分前から魔族の王は姿をくらましてしまったようでね……新しい王が共存を受け入れてくれる者であればとずっと思っていたが、ようやく、ようやくこの時がきたんだ……!こっちが一方的に共存を持ちかけたとしても、あっちに足蹴にされてしまっては意味を成さないからね!これでようやく大きな一歩を踏み出せた……いや、もうあと一歩のところまできているんだ……!!」







 どうやら本当に嬉しいようで、話をよくわかっていないフィニスを抱きかかえてくるくると回りながらカイルは喜んでいた。ロシュもちいさくガッツポーズをして声を漏らすほど喜んでいる。






「しかし、どうしてそんな話をもっと早くしてくれなかったんだ?」




「悪い奴に聞かれて、その王様が騙されたりしちゃあ寝覚めも悪いと思ってさ。カイルたちが信用できると思ったから今話した。それだけのことさ」




「ありがとう!ありがとうイツキくん!国王の目がある以上僕らでは魔族の深い事情までは知り得なかった、コネもツテもない、互いにほとんど独立した状態だったからね! 。今回の話は本当に吉報だ!僕らにとっての希望の兆しと言っても過言じゃない!この国に深入りしすぎて僕らではできなかったことをやってのけてくれた、本当にありがとう!!何度礼を言っても足りないよ!!」




「カイルおにいちゃんくるしいよぉ」




「俺も苦しいよぅ」







 フィニスを間に挟めて思いっきりカイルに抱きしめられながらくるくると粗雑に舞う樹。獣人たちのようなモフモフがないため少々キツい。







「よぅし!あとは最後の一手、国王の陥落だけだ!彼を共存派に導くのは難しい……実質、彼を失墜させる以外の道はないと言ってもいいだろう………改めてになるけれど、それでいいんだね、ロシュ?」




「………はい、それが、あの人の子供である僕の責任ですから」




「…………よし、やるぞ、やるぞぉ!」




「…………………んで、国王を失墜させる具体的な計画とかは、なんかあんの?」






 ふと投げかけた樹の言葉によって、一瞬で場が静まってしまった。






「それはまぁ、そのうち……」




「決まってないんだな……」




「ま、まぁここまでくればあと一歩……いや二歩………五歩くらいかな………だから大丈夫さ!」




「遠のいてんじゃねぇか……」






 なんとなくカイルの性格を理解したところで、樹も軽く思案する。


 国王を失墜させるなど、それこそクーデター紛いのことをしなければ叶わないだろう。彼らの雰囲気を見る限り、そんな大それたことは望んでいないようだ。どこぞの国のお偉いさんであれば、少しスキャンダルを撒き散らすだけで簡単に失脚させられたものだが、この世界ではそう簡単にはいかなさそうである。



 さすがに簡単には思い浮かばないかと諦めて、樹は切り出す。





「とりあえずの状況確認は済んだし、今日のとこはこの辺でお開きにしよう。これから国王のオトモダチを装ってここにちょくちょく顔を出すつもりだし、何かあればまたここで会議ってことで」




「そうだね、それが一番よさそうだ」






 オホンと咳払いをして、カイルが改めてその手を差し出す。






「本当に、本当にありがとうイツキくん。アリスから話を聞いたときは変な奴だと思ったけれど、こうして話してみてよくわかったよ。君も、心から魔族との共存を望んでくれているんだね」




「……あぁ」




「君が他国の人間でなければ補佐官として招き入れたいくらいだよ、本当に。………………本当に、ありがとう……っ」







 そう言って、カイルは小さな涙を零す。


 ここが最初の一歩。人と魔族が共存するための、ほんの些細な橋渡し。その一役を買えたことを、樹はどんな役を演じることよりも誇りに思ったのだった。






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