第99話
「気長に養生してください、また滑れるようになれますよ」
「はい、有難うございます」
そこへ、退院の手続きをすませた、彩世の母親が現れ、
「また、お世話になりました。有難うございます」
操は恐縮して云った。
「いえ、何のお役に立てずに残念です。所で、お医者さんは何と云っていますか?」
「お医者さんの話では、急に激しい運動をしたのがいけなかったそうです。だから、練習をはじめるなら、二ヶ月後なら良いと言っていました」
「やはり、僕も、そのことを心配していたんです。ところで、彩世さんを実家へお連れするんでしょうね。できたら、僕もお手伝いしたいと思っていますが」
「いえ、彩世は実家へ帰らないと云うんです」
「何故ですか」
「足が不自由でも、大学は休みたくないというのです。だから、京都の祖父母に面倒を見てもらうと云うのですよ。京都を離れたくないようなんです」
両親は意味深に云ってたが、意味を解さない祐二は、
「そうですか、じゃあ、僕の車で彩世さんを、お送りしましょうか」
「そうして頂いたら有り難いです。どうか、彩世をお願いします」
その時。
「彩世さん」
若い女性が彩世を呼んだ。
「あら、恵子さん、久しぶりね」
「怪我したの?大丈夫」
「ええ、フィギュアスケートの演技中の負傷よ」
「それは、お気の毒に」
云った後で恵子は彩世の両親に云った。
「もし、時間があるなら、彩世さんと少し話しがしたいんです」
「どうぞ、お好きなだけ話してください」
彩世の母親が云うと、恵子は、彩世が乗った車椅子を病院の外へ押して出た。
「懐かしいわね、恵子」
「本当ね」
恵子の声に、以前の元気さがない。
「元気が無いわね、もしかしたら、ご家族の方が入院しているの?」
「いえ、真竹家のご家族と一緒にきているの」
真竹家は、慎吾の生家だ。
「そのために、北海道から帰ってきたの?」
「違うわ、今、、神戸に住んでいるのよ」
「じゃあ、ご主人と赤ちゃんもこちらに?」