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第93話

「展望台は見えないけど、橋は見えますね。じゃあ、連れていってください。いや、僕が運転しますから道順を教えてください」

「祐二さんは、私の大切なお客様だから、私が運転します」

彩世は病気などなかったかのように、明るく微笑みながら車を発進させた。

やがて、車は高梁川大橋を渡ろうと車のスピードを落とした、佑二は何気なく橋の中間を見ると、高梁すみれが欄干から川を見ていたが、急に顔を車の方に向けた。

すみれは、無意識に佑二が来るのを察知したのかもしれない。

佑二は思わず手を振ろうとしたが、今、高梁すみれとの関係を彩世に話すのは彩世の心に動揺を与えると考え、知った振りをするのを控えた。

しかし、すみれが佑二を見つけたのか手を振った。すると、予想もしなかったことが起こった、それは、すみれが手を振るのと同時に、彩世が手を振ったのだ。

橋を渡る彩世の車の後には数台の車が同じように渡っているため、車を止められないので彩世は小さく手を振って橋を渡る。

佑二は、すみれが高梁川に助けを求めて来たのではないかと気になり、後ろを振り返ると、窓越しにすみれの姿を見たが、表情までは見えない。だが、自分か彩世のどちらかを見送っているのだけは確かだった。

佑二は内心で詫びた。

(会えたのに、約束を守らずにごめんよ、でも、次に会う時は、観光を頼むからね)

彩世と祐二が同時に手を振ったことで、彩世は祐二が彩世に見習っったと勘違いし、少女が何者なのかを説明する。

「さっきの少女はね、すみれさんと云って、私の一番、大切なユリの妹さんなの、今年高校生」

(そうだったか、しかし、何か寂しげな様子だ、もしかしたら、高梁川に来て、高梁川に、僕と交わした観光の約束を果たしたいとの想いを告げているのかもしれない、可哀相なことをした、でも、今は出来ない、彩世さんを見放す事ができないのだ、どうか、許してくれ)

佑二が心配したように、すみれは、高梁川に行ったら、佑二に会えると思って、時々、高梁川の大橋で佑二が現れるのを待っていたのだ。無論、佑二に想いを届ける為に。

すみれの想いは伝わり、佑二と挨拶を交わした、だが、本当の望みは観光案内である、その望みを壊したのは、すみれが最も尊敬している彩世だったのだ。

「佑二さんと彩世さんはどんな関係だろう、お兄さんと観光出来なかったのは、私の想いが邪な想いだったのかしら」

すみれの目から涙があふれる、その涙を拭かずに佑二と彩世が乗っている車を目で追いかけるが、やがて見えなくなった。

(私は、お兄さんが彩世さんの恋人だと分かるまで、高梁川で想いを送り続けるわ)

萎れていた、すみれの顔に明るさが戻った。

 その頃、祐二は、また、彩世に隠し事をしては良くないと思い直し、すみれとに関係を話そうとしたが、彩世の心を混乱させるかもしれないと考えてやめた。

やがて、車は十分ほどで展望台に着いた。

彩世が云ったとおり、車を三台も置けば満車状態になるほど小さな展望台なので、座る椅子やベンチもない。

車を居りた祐二は、高梁市の中心部を一望しながら云った。

「緑の山と裾野に咲くサクラの花、町の中を流れる高梁川、優しい人たち、そして、心に染み込む故郷の匂い、僕にとって、高梁市は、愛哀の故郷です」

祐二の言葉に感激した彩世が言った。

「愛の故郷、とても素敵な言葉ね。私が愛する故郷を愛してくださって嬉しいわ」

彩世をどんなに愛しても、彩世の愛を得られないばかりか、愛しているふりさえ出来ない祐二の哀しみを知らない彩世は、素直に喜んだ。

「彩世さんは、この展望台へ来たことがありますか?」

「いえ、都市での生活が多かったもので」

「じゃあ、こんな素晴らしい景色があるとは、想像も出来なかったでしょうね」

「ええ」

「町に向かって、手を楕円形に広げて見てください」

祐二は、大切な物を抱くような手を広げた。

「こうなの?」

「そうです、じゃあ、手の間から町を見てください」

彩世は祐二の云う通りに景色を眺めた。すると、まるで、美しい景色を自分が独り占めしているような錯覚にとらわれる。

「まるで、お伽話の絵本を見ているようだわ」

彩世が夢見るような瞳で応えた。

「そうでしょう」

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