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第92話 愛哀の故郷

備中高梁駅に着いた祐二が、改札口を出ると、サクラの花の匂いが微かに立ち籠め、その中に、彩世がサクラの精のように立っていた。

彩世の美しさに変わりはないが、今にも倒れそうなほどの衰弱ぶりである。祐二は、彩世に駆け寄り、その身体をしっかりと抱きしめそうになった。だが、出来ない。

彩世には、慎吾という婚約者がいるのだ。

「迎えに来てくれたんですね、有難う」

祐二は、彩世の目を優しく見つめる。それが、祐二が出来る彩世への愛である。

「来ないのかと心配したわ」

彩世の目は涙に濡れていた。

「彩世さんとの約束は、死んでも破りませんから心配しないでください。でも彩世さん大丈夫ですか?案内はまた今度に、そのへんでお茶でも」

彩世の痛々しい姿を見て、祐二は観光案内など無理だと思った。

祐二の気遣いを感じ彩世が云った。

「観光巡りをする前に、私のお願い聞いてくださる?」

「彩世さんの願いなら、何でも聞き届けますよ」

「有り難いわ、じゃあ、祐二さんと私が初めてお逢いした河原へ行きたいのです」

「喜んで御供します」

祐二が運転すると云ったが、彩世が案内するのは私の役目と云って運転した。やがて高梁川大橋を渡り駐車場に車を置いて河原へ行った。

「ここが、初めて祐二さんとお逢いした場所よ」

「そうだったね」

「ねえ、お伽話を、もう一度、聞かせてください」

云って、彩世は子供のよう目を閉じた。

彩世が祐二をこの河原へ誘ったは、祐二からお伽話を聞いた日を再現し、それ以前のことを無にしたかったのだ。訳は慎吾を忘れるために、

しかし、この考えは、彩世の苦し紛れの手段でしかない。お伽話を聞き終わった彩世は、心の整理がついたのか、急に元気のなった。

「お伽話の少女やユリに比べ、私には、元気な両親と祐二さんが居るから幸せよ。だから、もう泣かないし、病気などに負けないわ。私を元気づけるお伽話を聴かして頂いて、有難うございました」

「お役にたててよかったです」

「私のお願いはこれでお仕舞よ。今度は祐二さんが言ってください」

彩世の身体を考えれば、観光巡りより、一カ所で居られる方が良いと思った。

「そうだね。僕はこの町が好きです。だから、この町を一望できる所へ行きたいと思っていますが、そんな場所がありますか」

「それなら、ループ橋に小さな展望台ありますわ」

「ループ橋?」

「あの山の麓から頂上付近の道に架けた、ループ状の橋です。見えるでしょう」

彩世の細い指がループ橋の方角を示す。

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