第9話 お伽話
車の整備を終え自室へ戻り、テレビで好きな野球を見たりしたが、祐二の気分が滅入る一方だった。
そこで祐二は、気分転換を計るために、映画を見に行こうと考えた。しかし、どんな映画でも、必ず、悲しい場面がある。
今の祐二には、悲しいことや苦しいことなど、そして、人が流す涙さえも避けて通りたい心境なのだ。
人が絶対に涙を流さない所は何処だ、と考えたとき、食事する場所だと気付いた。
食事処なら、マンションから十分ほ歩いた先に山陰電車の二条駅があり、駅付近には様々な食堂がある。
祐二は、衣服を外出着に着替えるとマンションを出た。
十分後、二条駅前にきた祐二は、回転寿司の看板を見て、しばらくの間、店の前で立ち止まったが、忙しそうなので入店を諦めた。
祐二が求める食事処は、心が暗くならないような、明るい照明と食事時間に神経を使わない店。
探していると、祐二の目に、ファミリーレストランが見えた。ここなら、明るく、少しぐらい長居をしても営業の邪魔にはならないと考え店に入った。
「ハンバーガーとコーヒー」
店に入ると佑二はメニーと水を注文した。
何時もの祐二なら、こんな軽い夕食は絶対に辛抱できないのだが、今日は全然空腹感が湧いてこない。
ハンバーガーとコーヒを受け取った佑二は席につき、食べ始めたが美味しくないが我慢して食べた。
やがて、食事を終えた祐二は、すぐ帰ろうと思ったが、よく、考えてみると、だれも居ない部屋に戻るのは、折角、気分転換を計った意味が無くなるように思えた。
そこで、しばらくの間、ここに居させて貰おうと、何気なく入り口に目を向けると、祖母らしき上品な老女が、ピンクのフリルが付いたワンピースを着た、曾孫らしく五歳くらいの可愛い少女に手を引かれ店に入ってきた。
祖母は店内を見渡していたが、祐二の隣に二つの空席があるのを見付け、少女に、その席で待っているようにいうと、自分は飲食物を注文し、出来上がると、それを持って少女を祐二と挟む形で座り、
「お待ちどうさま」
と云って祖母は二つ持ってきたアイスクリームの一つを少女に渡した。
「美味しそう」
と少女は一口食べてから、
「冷たいからなお美味しいわ」
と満足そうに云った。
「そんなに美味しいかい」