第82話
祐二も、彩世を失う辛さで、あまり眠れなかった。
「乗車券は僕が昨日、買いましたから、まだ、少し時間があるので眠気醒ましにコーヒーでも飲みませんか」
「はい、お付き合いさせていただきます」
二人は、喫茶店へ行ったが、複数用の席が空いていなかった。
「仕方がない、電車内のコーヒーを飲みましょう」
「それがいいわ」
二人はプラットホームに上がった。
東京行きのプラットホームには、乗り降りする人で、賑わっていたが、その人の間を縫うように、ハトが餌を捜していた。
そこへ、東京行き、のぞみ号が入ってきた。
乗客は行儀良く列を作り車両へ順番に乗る、祐二は彩世を前にして最後尾から乗り、指定席に座った。
「落ち着きましたか」
「ええ」
答えながら彩世は祐二の顔を見る。
「少し、眠たそうですね」
彩世は、腫れぼったい顔を隠すように俯いた。そこえ、社内販売の女性が商品を積んだ車を押して来た。
「彩世さん、コーヒーは何を」
「ホットをお願いします」
祐二が販売員を呼び止めて注文した。
「ホットコーヒーを二つください」
祐二が注文すると、すぐ、コーヒーが祐二の手に渡された。
二人は、暖かいコーヒーで眠気を覚ました。
「間もなく、慎吾くんに会えますね」
「ええ、何だか、恐いです」
祐二は、彩世と自分がただの友達に見えるように気をつけたが、誰の目にも、仲が良い恋人同士に見えていた。
「品川駅まで、まだ、二時間もあります。一眠りしませんか」
彩世にしてみれば、今は祐二と一緒に電車に乗っているが、もし、会いに行った男性が捜している慎吾だったら、帰りの電車に祐二は居ないのだ。
「私眠れないの、どうそ、祐二さんは寝てください」
彩世は、祐二と出来るだけ長く居たかった。そして、この思い出を胸に仕舞って置きたかったのだ。