第81話 別れを胸に
祐二と彩世が自由に電話しあい、逢おうと思えば、何時でも逢えるようになると、皮肉なもので、十一月早々、東京の友人から、慎吾の情報を得たので、彩世に電話した。
「はい、彩世です」
待っていたような彩世の返事。
「慎吾くんらしき学生の消息がわかりましたよ」
「それは、本当ですか」
祐二への愛が高まったとはいえ、慎吾の消息が分かったと聞かされると、会いたいとの思いで胸が締め付けられる。
「僕が受けた感じから、間違いないと思います。でも、期待はしないでくださいよ」
「はい」
「住所は、東京の渋谷区、松濤町のマンションです。行ける日を教えてください」
「明後日の日曜日、でも、祐二さんに予定がありましたら、次の日曜日でもいいです」
「僕には予定などないです。じゃあ、明後日、尋ねて行きましょう」
冷静を装い、事務的に彩世と逢う場所と時刻を決め電話を切ったが、祐二の心の中は、
(もし、慎吾くん、否、慎吾くんに間違いない。その慎吾くんに彩世さんが会ったときが、僕と彩世さんの別れの時だ)
彩世が慎吾を捜した時、必ず祐二は傍にいる。そして、不要の存在になるのだ。
その時、祐二はどうするかは決めている、その場から黙って姿を消す。
約束の日曜日午前八時、京都の改札口。
祐二が改札口へ行くと、彩世が白いTシャツの上に黒のカーデガン、紺のジーンズ姿で立っていった。
黒のカーデガンを脱ぎ、ヘヤーバンドを付ければ、高梁川で写生した時の姿になる。
彩世がこの服装を選んだのは、慎吾に分かりやすいためと慎吾が心変わりしていたら、その時、別れるのではなく、新見駅で慎吾を見送った時を別れたことにし、新しい人生を歩こうと考えたのだ。無論、祐二とである。
彩世の決心を知らない祐二は、彩世が目立たない服装をして来たのは、世間の目を気にしているんだと考え、出来るだけ、ただの、友人として振る舞うことにした。
「お早よう、もう、来ていたんですか」
「はい、お待ちしていました」
「昨夜は、よく眠れましたか」
「はい」
彩世は、慎吾に会えるときめきと、祐二を失うかもしれないという不安で、少しか眠れなかった。
「それは良かった」