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第80話

思い出した彩世は、感激で手の震えが止まらなかった。

「この車に、僕以外の人が乗ったのは彩世が初めてなんですよ」

「初めてなの、何だか光栄に感じるわ」

光栄より、他の女性を乗せたことがないことが、彩世を喜ばせた。

「光栄とは有り難い。実は、乗せなかったのには理由があるんですよ」

「そのお話聞きたいわ」

祐二の話なら何でも聞きたい彩世である。

「じゃあ、話ますが、この話には思い入れが強いので、運転しながら話すのは危険だから、一時、車を停止します」

祐二は車を路肩に停めた。

「僕の故郷は島根県です」

祐二は経緯を話した。しかし、電車で彩世の姿を見たとは云わなかった。

「じゃあ、この車に乗って故郷へ帰るという目的は、まだ達していないのね。なんだか祐二さんが、可哀相に思えるけど、お母さんの気持ちを考えると、仕方がないと思うわ」

彩世が悲しい顔をした。

「やっぱりね。でも、そのお陰で彩世さんに逢えました。だから、人の運命なんて、少しのことで大きく変わることを知りましたよ」

「本当にね」

彩世は祐二に逢えた運命を幸せと感じ、自然に笑顔が出た。

「いい笑顔だ。これからは何時も、その笑顔で居てください。でないと、もし、慎吾くんに会ったら、嫌われますよ」

今の彩世は、祐二との再会の喜びに酔っていたかった。だが、祐二がその喜びを奪った。

彩世が云った。

「私は、慎吾さんを捜すことが出来なくなりました」

「何故ですか?」

彩世は、金丸慎吾事件を話した。

「そんな恐い目に遇ったんですか、これからは僕が一緒に行きます」

彩世は、祐二と逢えるだけだけで嬉しかった。

「よろしくお願いします」

やがて、ドライブも終わった祐二は、久世橋を渡り、蒔絵町にある、彩世のマンションの前に車に車を停めた。

「また、逢ってくださいね」

彩世が心細げに念を押した。

頷いた祐二は、車を発信させた。

祐二が願った過去へのリセットとは表面上だけは叶った。しかし、内面は、何も変わっていない。しかし、今の祐二には、これ以上の幸せを望むのはむりであった。

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