第77話
「分かりました。もし、逢えない時は、電話をします」
彩世は、祐二に嫌われているのかが知りたくて尋ねた。
「今日まで、一度も電話をしてくれなかったのは何故?」
「慎吾くんの情報がありしだい電話しようと考えていました。でも、何の情報もないから出来なかったのです。」
祐二の答えには不満だが、彩世は嫌われていないことを知って安心した。
「分かったわ、でも、用が無くても逢ったり、電話してね」
また、魅力的な目で祐二を見上げる。
「彩世さんもね」
と云いながら、佑二は彩世から目を反らした。
「自分のことを棚に上げてごめんなさい」
これから、二人は逢ったり、電話が出来ても、彩世に婚約者がいるかぎり、二人が愛を語ることは出来ないのだ。
「今日は、僕が付いているから危険でない。どうぞ、故郷に思いを寄せてください」
彩世は、祐二の優しい言葉に涙がでる。
「でも、祐二さんはお仕事中でしょう」
「日曜日は僕も休みです。だから、気が済むまで付き合いますよ」
「嬉しいわ」
云うと彩世は、先ほどまで座っていた所へ降りて行き、祐二を笑顔で招いた。
彩世の招きに応じた祐二は、
「今の彩世さんの顔は明るいですね。やっぱり、川が心を癒してくれたんですね」
彩世の心を労るように祐二が云った。
「分かります?」
と答えたが、本当の訳を今は云えない。
祐二は、草の上に座ると、
「慎吾くんのことだけど、僕は友人知人や、仕事関係の方にも捜すように依頼していますから、必ずよい報せがくると思います。どうか、もう少し待っていてください」
彩世にすれば、今は、慎吾の話しを持ち出して欲しくなかった。
「はい、よろしくお願いします」
と彩世は云うしか無かった。
祐二は、慎吾を探し出すのが如何に困難なことが分かっていたが、正直に云ったら、彩世が苦しむと考え、すぐ、探し出せると嘘を付いた。
「ところで、彩世さんはスポーツなどしていますか?」
祐二は話題を作るために、知っていて尋ねた。
「フィギアスケートをしています」
「そうですか。僕は、子供のころ、面白半分に滑りましたが、滑るより転ぶのが早かったので、才能がないと、即、諦めました。簡単なようですが、案外、難しいですね」