第76話
佑二が優しく尋ねた。
「悲しかったから」
思わず彩世は本心を云ってしまった。
彩世は、祐二からの電話を待っていたが、何の連絡もないので、一度は、電話しようと考えたが、催促しているように思えて出来なかったのだ。そして、彩世は、祐二が自分の悲しそうな様子を見て、仕方なく、慎吾捜しを申し出たと考えるようになり、男はみんな慎吾と同じように、約束を破ると思って悲しんでいた。
しかし、祐二だけはそんな人ではないと思いたいために、この場所へ来て、あの日を思いだしていたのだ。
祐二は、彩世の泣く様に、堪らない程のいじらしさ感じ、涙が出そうになる。
(慎吾くんに会えない淋しさを僕に逢って、その淋しさから逃れようとしているんだ)
そう考えた祐二は、今、慎吾の話をするのは酷だと思い。
「泣きたいほど実家や高梁川が恋しいんですね。でも、ここは危険だから、二度と来ないようににして下さいよ」と、ホームシックのせいにした。
「ごめんなさい。祐二さんが命を賭け、私を助けてくれたのに、また、同じことをしてしまいまた。もう、絶対に来ないと約束します」
彩世は心底から悪いと思ったのだ。
「彩世さんは、百合さんとの約束を破らないように、どんな約束も破らないから安心して居られます」
「信じて頂いて嬉しいわ」
祐二は、後で、自分が云ったった言葉により、彩世が縛られるとも知らずに云ったったのだ。
「祐二さんは、この場所をよく通るんですか?」
貴女に逢いたくて来ましたなどは絶対に云える訳がない。
「そうですね、月に一度は通ります」
と何気ない振りをした。
「じゃあ、助けてくれた時も?」
「そうだよ」
「じゃあ、二度とも、月に一度だけなのに出逢ったのね」
と、彩世は二人の縁の深さを強調した。
「そうだね、本当に不思議だね」
「私たち、どうしても逢う運命だったのね」
「僕は、どうやら、彩世さんが困った時に現れる運命を持つ人間のようだね」
違う、逢いたいと思うから逢えたのよと云いたい彩世。
「私が困った時だけって云うのは嫌よ」
彩世は魅力的な目で祐二を見上げた。