第75話 桂川
そこで、祐二は、場所を特定するには、あの日と同じ行動をする必要があると考え、あの日の行動を思いだそうとした。
あの日とは、彩世を助けた日の事だ。佑二は桂離宮近くの会社で商談を済ませ、次の行き先は、伏見区の久我の会社へ行くために、桂川の堤防上を通る水垂上桂線に車を乗り入れ、川下の久我に向かった。
彩世を助けた場所は、堤防下から桂川までに広がる河川敷で、大小の木々に囲まれ、よく注意しなければ、木々の下で何が行われているか分からないような場所であった。
しかし、祐二は、あの時、木立の中で一瞬だが何か動く物を見たので、車を停め、耳を澄ませると、小さな悲鳴が聞こえた。
祐二には助けてと聞こえたので堤防を駆け下り、彩世を助け、早く逃げろと、命じたが、闘いを仕掛けず、相手の出方を待った。相手の二人は闘いになれているのか、用心深く祐二を観察していたが、我慢できなくなったのか、殴りかかってきた。
しかし祐二の敵ではない。二人の男は、瞬時に草の上に投げ飛ばされたので、恐れをなして逃げだした。
暴漢が逃げ出した方角は、助けた女性が逃げた方なので、祐二は、男達を追い掛け、追い越し、反対の方向へと追いやり、女性が安全な場所まで逃げたか確かめるために、逃げた方を見ると、助けた女性が、水垂上桂線を上流に向かって逃げて行く小さな姿が見えた。
女性の安全を確認した祐二は、商談時間が迫っていたので、すぐ、車の乗ると、久我に向かったのだ。
あの日のことを思い出した祐二は、まず、桂離宮へ行き、水垂上桂線に乗り入れ、河川敷を見ながら、スピードを落とし、久我方面に向かった。
やがて、見覚えがある木々が見えてきたが、当然のように彩世は居ない。
だが、リセットするには、あの木々の下へ行く必要がある。そこで、祐二は車を降り、堤防から河川敷へ降りようとして、下を見た。
「彩世さん!」
捜していた彩世が居たのだ。
それも、あの近寄りがたいフイギュアスケートのスター彩世でなく、祐二が助けた時と同じ姿をした彩世が居たのだ。
祐二の頭は、一瞬、真っ白ににるほどの衝撃を受けた。
彩世は、自分の名を呼ばれた堤防の上の方へ振り向くと、スーツ姿の祐二が車を背にして立っていた。
「佑二さんん!」
彩世は、あの日に戻ったような気がした。彩世の目に涙を溢れさせ、祐二の姿が見えなくなる。
「佑二さん!」
彩世は、また祐二の名を呼び、堤防の階段を駆け上がった。
祐二は、彩世に、こんな危険な場所へ一人で来たんだと注意しようとしたが、彩世の涙を見て可哀相になり
「どうしたの?」