第72話
「最近、親が仕送りを止めると云っているので、パチンコができないから北海道へ帰るといいだしたの、呆れたでしょう」
「そうだったの」
「そうよ、弁護士にならなくてもいいの、自立心さえあれば別れないわ、どうにも我慢できないのは、パチンコばかりして、働きもせず親に頼ろうとする甘えが許せないのよ」
人間が働く心を失ったら、幸せはない。まして、愛する人がいる者が働くことを放棄したら、その人達を幸せにできるはずはない、まして働かなくなった原因がギャンブルなら救いようがない。
彩世は自分の苦しみを忘れ、恵子の身を心配して云った。
「深刻な問題ね」
「そうでしょう」
「私には、恵子の愛している彼が、パチンコに夢中になるなんて、考えられないわ、パチンコは愛より強いの?」
「彼の場合はね」
「残念ね」
「私も最近までは、愛に終わりは無いと考えていたけど、その愛がメッキを剥ぐように剥がれていたわ」
「愛って、そんなに簡単に無くなるのね」
彩世は慎吾の顔を思い浮かべていた。
「私は、自分の心を覗いて知ったわ」
「そうなの。ところで、そのことをご両親に相談しの」
「したわ」
「じゃあ、姫路の実家へ帰ったんだ」
「いえ、彼が夏休み中は帰るなときつく云うので帰れなかった。でも、電話で話したわ」
「で、ご両親の考えは?」
と親の考えが知りたい彩世が聞いた。
「すぐ別れなさいだったわ」
「そう、でも、大学は辞めたりしないでしょう」
「いえ、辞めるかもしれないわ」
「えっ、辞めるの?」
彩世には信じられなかった。
「そうよ、私、何だか勉強するのが嫌になってきたの」
慎吾の不実に泣いた彩世は、恵子の心境を理解できた。
「何もかも嫌になったのね」
「そうよ」
「辞めてどうするの?」
「就職するわ」
と、恵子は未練を断ち切るように云った。