第70話
その気味悪さに身震いをした彩世は、
「失礼は重々お詫びします、どうかお許しください」
と部屋を出ようとしたが金丸が玄関へ先回りしてドアの鍵を掛けた。
彩世は、恐怖に慄きながらも、金丸を退け鍵を開けようとすると、金丸は彩世の手を取り、部屋に連れ込もうとする。
「助けて!」
彩世は叫んだ。すると、金丸は彩世を押し倒し、手で口を塞いだ。彩世が全力で抵抗していると金丸の手が彩世の口から外れた。
「祐二さん、助けて」
思わず祐二に助けを求めていると、廊下を走る音が聞こえ、閉じこめられた部屋のドアを激しく叩く音と同時に、
「警察を呼ぶわよ、開けなさい」
と女性の声がした。その声に驚いた金丸は彩世から離れた。彩世は夢中でドアの鍵を開け外へ飛び出すと、外に立っていた女性に縋り付いた。
「この女は俺の女だ。他人が余計な事をするな」
後から出てきた金丸が恐い顔をして、女性を睨む。
「それ本当?」と云いながら彩世を見た女性は、
「彩世!彩世ね」
と、驚きの声を上げた。
彩世は恐怖で言葉もでないのか、首肯いてから救いを求めようと、女性の顔を見た。
「恵子!」
それは同じ大学に通う友人の森田恵子だった。
「この男性と付き合っているの?彩世」
「違うわ」
彩世は恵子に縋り付いた。
「うるせえ、俺たちは付き合ってるって云ってんだろ」
男が脅すように云うと、恵子が声を張り上げ、
「彼女に危害を加えるのなら警察を呼ぶわよ」
恵子の言葉に男はせせら笑いながらも呼べよと云っていたが、三人のただならぬ様子に何事かと、住人達が集まってきた。
「脅されてるんです、誰か警察を読んで下さい」
すると金丸は分が悪いと思ったのか、
「面倒なまねしやがって、さっさと帰れ、余計なまねすると殺すぞ」と捨て台詞を吐くと部屋へ逃げ込み、ドアを荒々しく閉めた。
集まった人々もそれを見届けると安心したように、帰っていった。
恵子は彩世をマンションから外へ連れ出しながら尋ねた。
「なぜ、あんな男に絡まれてたの?」
彩世は、話そうとしたが、まだ、恐怖で、何も考えられない状態だった。それを悟った恵子は、彩世が落ち着くのを待ってから聞こうと考え、大阪の梅田まで出たところで、地下街にある喫茶店へ連れて行った。