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第7話

「大丈夫だから、遠回しな話をせず、すぐ、教えてくれればよかったのに」

「そういわれてもね」

母親は苦しそうに云う。

幻とはいえ、章治の顔をみて、過ぎし日々の楽しかった出来事を思いだし、その余韻に浸っていた矢先の悲報、祐二は、ただ、章治の冥福を祈るしかなかった。

母親は祐二の気配から、章治の冥福を祈っていると感じ取り、しばらくの間、無言を続けていたが、頃合いをみて、また話はじめた。

「新聞やテレビの報道で、大きな事故が発生したと聞いて間もなく、似たような事故が次々と起こるでしょう。その上、不吉な夢を見たの。夢はね、祐二が車で帰省していると、急に真っ黒い闇が現れたかと思うと、一気に祐二を飲み込んだのよ。夢と笑うかもしれないけど、祐二が事故に遭うのではないかと思うと、母さんは恐くてしかたがないのよ。祐二が章治さんのように私の近くで死ぬなんて、考えただけでも耐えられないわ」

章治の死が、母親に大きなショックを与えていることは分かった。だが、話せば分かると思い、祐二が諭すように、

「今の車社会で、そんな事を気にしていたら生きていけないよ。夢を真に受けるなんて母さんには似合わないよ。とにかく安全運転に徹して帰るから安心して」

「駄目、章治さんだって、運転は慎重よ。そのことは母さんもよく知っているわ。それでも、事故に巻き込まれたのよ。これほどいっても祐二が車を運転して帰ると云うのなら、母さんは、今から胸が張り裂けるような苦しみを受けるわ。そして、死んでしまうかもしれないのよ。それでもまだ帰るというの。今日まで、次男のお前は、兄と妹の陰に隠れ、したい放題にしているのを母さんは許して来たんだから、一度くらい、母さんのお願いを聞き届けて!」  

感情をあらわにして云うと泣きだした。

大概の親は、わが子が長年の目標に掲げた夢を、明日、果たそうとしていることを知ったなら、如何なることがあっても邪魔はしないだろう。

だが、祐二の母親は壊そうとしている。それも絶対に有無を云わさないとばかりに。

祐二は、母親の不当な要求に対し、断固戦おうとしたが、物心がついてから今まで、一度も、こんなに取り乱した母親を見たことがなかったので、自分が母親を苛めているような嫌な気分になってきた。

母親が云ったように、両親は兄や妹の方に気を取られ、祐二にまでも手が回らない。そのため、ある程度は放任していたのだ。だからといって、悪いことまで放任した訳ではない。叱るべき時は、特別、厳しく叱った。

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