第69話
翌日、彩世は大阪の環状線天満橋で下車し、父に教えられた住所のマンションへ行き、郵便受けを見て、金丸慎吾の名前を確かめた。
彩世は、はやる心を押し沈め、エレベーターに乗り、六階のボタンを押す。数秒で六階に着き、ドアが開いた、同時に彩世の心臓が早鐘を打つ。
慎吾の部屋の前に着いた彩世は、ドアを軽くノックし、ドアが開くのを待つ、その間の時間が、彩世にとって、無限の長さに感じた。
だが、室内からの返答がないため、今度は少し強めにノックする。その音がマンション内に響き渡った。
そして、部屋の内側で人の動く気配がしたのと同時にドアが開いた。
誰?と云いながら、頭髪を茶髪に染めた男が出て来た。彩世の目には、出てきた男がとても大学生に見えなかったため、
「慎吾さんは居られますか」
と尋ねた。
「居るよ、君は誰だ」
「失礼しました、天見彩世と申します」
「用はなんだ」
と男は気味の悪い顔をして云った。
「慎吾さんを尋ねて来ました」
「会わしてやるから入れよ」
云うと、男は彩世を室内に導いた。
「慎吾さんは?」
疑うことを知らない彩世は、まだ、この男を信用し中へ入った。そんな彩世を玄関から中へと導いた男は、
「前にいるだろ?俺が金丸慎吾だ」
と云われても、父に紹介された慎吾がこの男と同じだと思えない。
「嘘でしょう?」
「正真正銘、俺が金丸慎吾だよ」
と、運転免許証を見せた。
免許証の名前は金丸慎吾となっており、写真は男の顔だった。真実を見た彩世は、失望と同時に失礼なことをしたことに気付き、
「ごめんなさい、間違ってしまいました。どうかお許しください」
彩世は心を込めて謝罪した。
金丸慎吾はそんな彩世をニヤニヤしながら見つめて馬鹿にするように。
「何を謝ってんだよ」
「金丸慎吾さんを、捜している人だと勘違いして会いに来たことです。突然お邪魔して申し訳ありません」
「勘違いじゃない。俺は君が捜している慎吾だよ」
と、金丸は薄気味悪い笑いをうかべた。