第66話
(彩世さんはスター、僕とは住む世界が違う)
この時、祐二は、彩世への想いを断ち切ろうと思った。
「彩世さんをご存じなんですか?」
霧子が尋ねた。
「いえ」
佑二は嘘をついた。
「近年の彩世さんは、調子を落としているけど、二、三年前は、オリンピックでメダルを獲れると言われていたのよ」
「なぜ、調子が落ちたのでしょうか」
「人様は、様々な憶測をしているけど、私は、女性としての見地から、身体の変化と恋だと思います」
「なるほどね」
恋と聞いて、祐二はありえると思った。
やがて、彩世の演技は終わると、また、嵐のような歓声と拍手が場内に木霊した。
祐二も、想いを込めて拍手した。
「今日の彩世さんは、とても美しく纏めたけど、以前の正確さがないわ。恐らく、精神的の問題で、演技力が落ちたようね」
「よく、ご存知ですね」
「私もフィギュアの選手だったのよ」
「詳しいと思ったら。貴女も選手でしたか、何故、やめたのですか?」
「十六歳の時から急に体調を崩して止めたわ」
「それは残念ですね。体調を崩さなかったら、今、リンクの上に居たでしょうね」
「そうかも知れないわね」
祐二が慎吾を捜すと言った時、彩世の顔が喜びと困った顔に変わった意味が分かった。
(彩世さんはスターなんだ。もし、彩世さんの名前で、慎吾くんを捜したら、新聞に載る可能性があり、二人が迷惑をしていただろう。僕の名前で捜しすことにして良かった)
やがて、選手の演技が終わったので、四人は会場を出ると、近くの喫茶店でコーヒーを飲んだ後、鈴木が、樫山に用があると云って女性たちと別れた。
「おい、用があると云ったが、何の用だ」
「霧子さんと、仲良く話していたね」
「そう見えたか、よかった」
「ということは、お互いに意気投合したんだね」
「意気投合?それは何だ?」
祐二が尋ねた。
「お前が霧子さんが互いに好意を抱いているように見えたからだ」
「ええ?そう見えたか」
祐二が意外そうに云った。