第65話
「最近、僕は、今までに、全然関心がなかった事が次々と目や耳に入り、自分が違う世界に居るような気がしてならないんだよ。これもその一つかにな、仕方ない、付き合うとするか」
「じゃあ、明日の正午、京都駅で待ち合わせ、食事後、スケート場だ」
退社後、祐二と鈴木は、居酒屋でささやかな乾杯して帰った。
翌日、祐二が指定された場所に行くと、予想もしない女性が居たので驚いた。その女性は、同じ会社の京極霧子がそこにいたのだ。
「京極さん。貴女も、鈴木くんに誘われたんですか」
「いえ、私は吉永良子さんに誘われたんです」
「僕はフィギアスケートを見るのは初めてなんです。貴女は?」
「私は、知ってます。」
「じゃあ、先輩なんだ。僕は何も分からないから、よろしくお願いします」
二人で話ているところへ、鈴木と婚約者の良子が来た。
「遅くなってすまん」
四人は食事をした後、スケート場へ行った。
フィギュアスケートは人気スポーツなのか、観客席はすでに満員だった。
自分たちが座る観客席は、スケートリンクから一番遠い席だと思っていたが、リンクから五列目の席だったので、祐二は驚いて鈴木に尋ねた。
「こんないい席良く購入できたな」
「良子が、自分の両親の結婚祝いに、俺の分も含めて買ってくれたんだが、あいにく両親の体調が思わしくないので、券を無駄にするのももったいないと、彼女は友人の京極さんを誘い。一枚余るから俺も誰か友人を誘ってみてと言われたんで、親友のお前に気晴らしにどうかと来てもらったのさ」
どうやら、鈴木と良子は祐二と霧子の仲を取り持つための作戦だった。
しかし、祐二は霧子を女性として尊敬していても、恋愛感情を持っていない上に、鈴木から、霧子が祐二好意を抱いていると聞かされていたので、霧子を意識するあまり、場内のことは上の空だった。
やがて、フィギュアスケートの演技が始まった。特に女性は、華麗な衣装に身を包み、優雅な演技で観客を夢の世界へと誘った。
演技者の何人かが華麗なパフォーマンスで観客を魅了していたが、一人の女性がリンクに上がると、今迄よりも一際、大きな歓声と拍手が起こった。
「彩世さん!」
良子と霧子が声援を送った。
霧子に神経を使っていた祐二だが、自分の命より大切と思っていた彩世の名前が出たので祐二はリンク上の女性を見て驚き、思わず「彩世さん」と呟いていた。
河原の彩世は美しくても親しみが持てたが、スポットライトに照らされながら、氷上で演技する彩世は、まるで、春の妖精のように見え、佑二には彩世が急に遠い世界の人のように思えた。