第64話
「俺に謝っても無駄だ」
「分かっている」
「もっと、思考を方々に向けるべきだな、でないと、次の目標は達成しないぞ」
「次の目標を知っているのか?」
「知っているよ。会社を起こして、本社を島根県に移転し、島根の繁栄に寄与するんだろう」
「詳しいな」
「当たり前だ。入社日の退社時、同時入社した者たちが集まり、お前に遊びに行かないかと誘ったとき、お前はみんなの前で云っただろう。目的があるので、みんなと遊び等の付き合いは出来ないから、よろしくお願いしますと。後日、俺がその理由を糾したら、云ったじゃないか」
「そうだった。ところで、婚約の話はどうなった?」
「お前のせいで、話がそれてしまったが、婚約相手は、お前も知っている庶務課の吉永良子だよ」
「無論よく知っているよ。何時も物腰が穏やかで、素敵な女性だ。お前の目は確かだなあ。お目出度う」
祐二の賛辞に鈴木は、
「お前に褒められて嬉しいよ。有難う」
「結婚式は何時だ」
「十一月中旬だ。式に出てくれるだろうな」
「丁度、二ヶ月後だな。喜んで出席させてもらうよ」
「諸事に関わらないお前の出席が、何より嬉しいよ」
「変人扱いをするな。そうだ婚約に乾杯しないか」
「一滴もアルコールが飲めないのに、乾杯とは、威勢がいいことを言うね」
「目出度いことだから、退社後、乾杯できる所へ行こうよ」
「分かった、ところで、明日の土曜日、予定あるか?」
と、鈴木が尋ねた。
「無い、自慢できないがね」
「良かった。じゃあ明日、俺に付き合ってくれ」
「何をするんだ?」
「フィギュアスケートの観戦に行くんだ」
「何だ、それは」
「スケートリンクで、飛んだり、舞ったりする美しい競技だよ」
「そんな競技があったのか、知らなかった」
「馬鹿と云いたいが、お前に云っても意味ないかな。兎に角、行ってくれるな」