第63話
と、何度も頷いていた。
「その態度、何となく、おもしろがってないか」
「すまん。帰省日と云うが、以前から好きな女性が故郷に居たのとちがうのか?」
「違うよ、なぜ、勝手な推測するんだ」
「推測ではないよ。その証拠は、去年、我が社に入社した京極霧子、この名前はお前も知っているだろう」
と云いながら祐二の顔色を伺う。
「知っているよ。それがどうした?」
「吉永良子が言っていたよ。この夏の休暇前、我が社のマドンナ的存在の京極霧子が、お前を北海道旅行に誘ったが、断わられたと泣いていたそうだよ」
「待ってくれ、断ったのは確かだが、彼女だけでなく、数人のメンバーと一緒に行かないかと云っていたよ、そして、僕はお金を使いたくなかったのだ」
「それは分かっている、だが鈍い奴だ。社内の独身男性なら、彼女から誘われたら断る者は一人も居ない。それなのに断ったのは、故郷に恋人が居る、この考えは理論整然としているだろう」
「ばかばかしい」
と、あきれ顔で云うと。
「じゃあ、理由を話せ」
鈴木はよほど祐二の恋物語を聞きたいのか、追求の手を緩めない
「断ったのは、買った新車を父母や幼友達に見せることだった。しかし、計画が急変したために、目的が果たせなかったけどね」
「じゃあ、初恋の女性といつ出逢ったんだ」
「帰省した日だよ」
「八月二日か」
「そうだよ」
「じゃあ、婚約を知ったのは?」
「半月前だ」
「じゃあ、約、一ヶ月で初恋は終わったんだな」
「そういうことになるね」
「お前は目的に一直線だから周りが見えないんだ。だから、すぐ、振られるような女性に恋をしてしまったんだ。じゃあ、もしかすると、霧子さんに好意を抱かれていることに全然気付けなかったんだな」
「好意を持たれいた?」
「やっぱり、車の為に霧子さんの愛が分からないなんて、お前の、その無神経さに腹が立つよ」
「そうか、それは申し訳ないことをした」
祐二は、心底から謝った。