第61話 危機一髪
彩世は堪らず、この場から逃げ出したくなる。すると、暴漢と戦う祐二の姿が現れると、すぐ、お伽話を話す声が聞こえる。そして、不意に祐二の暖かい手の感触が蘇り、思わず。
(わたしを助けて)
と、叫ぶ。すると、祐二の手が彩世をしっかりと握り、「京都で逢おうね」という妄想が頭を駆け巡りながらも、絵は完成した。
「ユリ、ごめんね。あなたの不幸と比べたら私の悲しみや、苦しみは取るに足らないわ。今日の午後、私は京都へ戻るけど、また、会いにくるわ」
家に帰った彩世が京都に帰る準備をしていると母親が来て。
「あら、少し元気になっている。どんな心境の変化かしら、もしかしたら、祐二さんのせいかしら」
母親は不誠実な慎吾より、彩世を助けてくれた祐二が彩世の結婚相手として相応しいと思っていたので、彩世の心が祐二に傾くように仕向けながら、車で彩世を備中高梁駅へ送り届けた。
「京都には祐二さんが居るから、安心して見送れるわ」
と彩世の反応を見る。
母親の期待に反し、彩世は、今も慎吾を思うと会いたくて胸が苦しくなる。だが、やくも号に乗った彩世の顔は、昨日より少し明るくなっていた。
祐二が母親との約束を守っていたなら、今頃、祐二と彩世はお伽の国の主人公になり、幸せな日々を送っていただろう。
だが、守らなかったために、愛する彩世までも悲しみの淵に巻き込むこととなった。
祐二と彩世に、再び幸せが訪れる日があるのだろうか。
京都に戻った祐二は、彩世への恋心を封じ、早速、友人知人や会社関係の人達に慎吾捜しを依頼した。
しかし、日が経つに従い、封じた筈の恋心も封じ切れなくなり、逢いたさに、胸が潰れそうになるのだ。
祐二の切ない心を癒せるのは、彩世に逢うことだ。しかし、彩世に逢うためには、約束したように、慎吾の情報を得た時である。
そこで祐二は、情報を得るために奔走したが、一ヶ月が過ぎても、まだ、一件の情報も得られないため、苦悩していた。
そんなある日。
「おい、昼飯に行こうか」と同僚の鈴木肇が、仕事をしている祐二の肩を叩いた。
「もう、そんな時間か」