第6話
そこで、二十五歳になる誕生日、即ち、一週間前に新車を買ったのだ。
車は高級車ではないが、大げさにいえば、今日までの人生、それも、全てを犠牲にして貯めた金で買った車なのだ。
明日、第一の目的が果たせる。そして、明後日からは次の目標に向かって進むんだと、充実感に浸っていた矢先、それも一番に喜んで欲しい母親が壊そうとしているのだ。
また、故郷に住む多くの友達にも、新車に乗って帰るといってある。今更、乗って帰れないなどと、恥ずかしくて云えない。
祐二は目の前が真っ暗になった。そんな祐二の心を気づかないのか母親が云う。
「祐二が車で帰ってきたいと思う気持ちは分かるけど、母さんを助けると思って、黙って、聞き届けて」
「そんなこと、絶対に聞けないよ!」
最後の抵抗を試みた。
すると、母親が今にも泣きそうな声で、
「どうして母さんを苦しめるのよ!」
と泣き落とし先日にでた。
「母さんが無理を言うからだ。だってそうだろう。父さんや母さんが買ってくれた中古の車なら帰ってきてもいい、それなのに、僕が初めて新車を買い、乗って帰ると言うと、止めろと云う、そんなことを聞けるわけがないよ。そうだ、僕が買った車で帰るのが母さんは嫌なんだ」
「違うわ、それには大きな訳があるのよ」
「訳?」
母親が声を潜めて、
「章治さんがね」
「彼がどうかした?」
「死んだのよ」
云うと、悲しみに堪え切れず母親は泣き出した。
「ええー、いつ死んだの!」
家路雲は、親しい友と永遠の別れを祐二に知らせるためだけなのか、それとも、他にも理由があるのだろうか。
驚きと悲しみに言葉を失った祐二に、母親は悲しみを抑えて説明する。
「二日前、名古屋から車で帰る途中、鳥取と島根の県境で交通事故に遭ったのよ。それも酷い事故だったそうよ。だから、母さんは、祐二のことが心配で心配で、眠れない日が続いていたけど、今日、葬儀に参列して、一層、祐二のことが心配になってきたわ」
「なぜ、早く知らせてくれなかったんだ」
「知ったら祐二が動転し、仕事に手が付かず、事故を起こすかもしれないと思うと話せなっかった。だから、明日、祐二が帰省した時に話すのが一番よいと思ったからよ。」