第57話
彩世は、祐二の顔を見た瞬間、何かに触れたような驚きの眼差しで祐二を見ていたが、
「あなたは!」
と驚きの声を上げた。
彩世の驚きに祐二の方が驚いて、下から見上げる彩世の顔を見て、
「あっ!」
と、祐二も驚きの声をあげた。
佑二は女性の驚き顔とライトブルーのヘヤーバンドが合致するのと同時に、当時の状況がはっきりと蘇った。あれは、二年前、助けを求める女性の声を聞き、駆けつけると、二人の男が倒れている女性に襲いかかろうとしてた。
祐二は咄嗟に二人の男を突き倒し、女性を助け起こしながら、怪我をしていないか顔を見た。その驚いた顔が、今、祐二の前にあるのだ。
彩世を思い出せなかったのは、助けた喜びより、闘った後の虚しさの方が遥かに大きいため、出来るだけ事件を忘れるようにしていたからだ。
しかし、祐二には彩世が忘れがたく、心の奥底に、その顔を刻んでいたのだ。
彩世が感動に震える声で言う。
「あなたは、私を助けてくれた人でしょう」
一瞬、彩世は祐二に抱きつこうとしたが、耐えた。
彩世は祐二が歩いてくる音を聞いても、何の警戒心も抱かなかったのは、感覚的に、自分に害する人でないことを感じていたのだろう。
「あの時も、そのヘヤーバンドをしていましたね」
と、祐二が云うと、
「はい、覚えていてくださったのね」
と嬉しそうに答える彩世。
「忘れませんよ。二年前の五月、桂川でしたね」
「はい、あの時、貴方が早く逃げるんだ。と叱るように云ったから、私は恐くなって、お礼も言わずに帰ってしまいました。でも、貴方のお顔は忘れませんでした。あの時は、危ないところを助けて頂いて、有難うございました」
柔道と空手の高段者である祐二には、二人の悪党を追い払うのに苦労は無かった。祐二は女性が、自分を覚えていてくれたことを知り、失恋したことも忘れ、この上もない喜びを感じてた。
「恐いのに、よく僕を憶えていましたね」
「忘れる筈はありません。貴方は私の(初恋の人と言うのを耐え)恩人ですもの」
恩人だけてはない。、慎吾に出合うまでの彩世は祐二を結婚相手と思っていたのだ。
「早くお逢いしたかったわ」
と、云った、その言葉には嘘偽りはない。慎吾に出会う前に逢っていればよかったのにと心の中の叫びが口にでたのだ。
だが、すぐ、彩世は、祐二に惹かれて行く自分に気付き、慎吾に詫びていた。