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第54話

祐二は話始めたが、聞いたとおりに話すことが出来ず、要約して話すことにした。

「昔々、高梁川の川辺に貧しい漁師が居りました。漁師には、病弱の妻と、六歳の娘と二歳の妹がいました。父親は毎日のように高梁川で漁をしていましたが、どんな訳なのか、急に魚が獲れなくなってしまったのです。そんな或る日、父親は上流へ行けば魚が獲れると言って出掛けたまま帰って来なかったのです」

話ながら、祐二は、自分の語り下手に我慢ならず、止めようと思い彩世を見た。しかし彩世が真剣に聞いているので、止められなくなった。

最後まで話そうと覚悟した祐二は、一息吐いてから、話はじめた。

「父親が帰ってこないため、食べる物がなくなり、母親は起き上がれないほど病気が重くなったのです。そこで上の少女は、母親と妹に食べさせるため、毎日、高梁川へ魚を獲りに行きました。しかし、六歳の女の子が獲れる魚は小さい魚ばかりでした。そのうち、少女が小魚を獲っていることが、村のお金持ちの子供たちに知られたのです」

「お金持ちの子供たちは少女に対して、「僕のお庭の池に飼っている魚と同じ魚を取って食べている。魚が可哀想だ。すぐ、取るのをやめろ」

と、川へ石を投げ込み小魚が取れないようにと、小魚を脅かして逃げさすのです。少女は意地悪をされ泣きました。しかし、どんなに意地悪されても少女は魚を獲って帰らないと、母親と妹が死ぬことを知っていました。

少女は意地悪な子供達が帰るのを待ってから、魚を獲りました。しかし半年が経つ頃には、少女が獲れるような小さな魚はいなくなり、例え獲れても、一匹か二匹でした」

一息ついた祐二は、彩世の顔を見て話すのが恥ずかしくなり、彩世に背を向け、川の流れを見ながら話す。

「少女は獲れた魚は母と妹に食べさせた、自分は草木の葉を食べ、朝の暗いうちから高梁川へ来ました。しかし、獲れる魚は居りませんが、取れない深い淵には数匹、少し大きめの魚が泳いでいました。少女は荒れて黒くなった手を差し出してその魚を獲ろうとしてしました。だが、少女は知っていました。いくら手を伸ばしても魚が獲れないことを、でも少女は手を伸ばさずにはいられなかったのです」

真剣に話しを聞いていた彩世が急に顔を覆って泣き出した。

「どうかしましたか!」

祐二が驚いて尋ねると。

「私は薄情者です」

と泣き伏せる。

「貴女の力になりたい、どうか理由を教えてください」

彩世は、百合があの荒れて黒くなった小さな手で小さな魚を獲り、小さな弟や妹に食べさせていたのでは、と考え、思わず泣いてしまったのだ。

彩世から、哀れな百合の話を聞かされた祐二も、涙が出るのを止められなかった。

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