第51話
佑二が高梁川に、また近日中に来ますと誓って、京都へ戻った、だが、会社に勤務する身では、休める日が土日しかない。
また、土日が降雨の周期に入ったため、八月下旬を過ぎても行けなかった。そして、最後の土日も雨の予想だった。
そんな金曜日の朝、父親からの電話があった。
「元気にしいているか」
「お見合いならお断り」
祐二が電話を切ろうとすると、それを察した父親が慌てて、
「違うから、話を聞け」
と命令口調で云った。
「嘘を云ったから切るからね」
「分かった」
「じゃあ、話を聞く」
「おい、祐二、なんか変だぞ。もしかしたら好きな女性がいるのか?」
父親が期待を込めて尋ねた。
「居ないよ」
「情けないな。だから、早く結婚さそうと思って俺は必死に相手を探しているんだ。話が逸れてしまったが、実は、十月に国会議員の選挙がある。保がその選挙に立候補すると決めたんだ。そこで、明日、家族会議を開きたいから、今夜、帰ってこれるか」
「それが本当なら、ぜひ帰るよ」
「じゃあ、待っているからな」
父親が電話を切った。
祐二の実家は、兄が生まれるまで、春日町で農業を営んでいたが、周りが段々と宅地開発されたせいで、農地が農業に適さなくなった。そこで、農地を少し売却し、園芸業を始め、今では、四季折々の花をポット栽培し、島根は無論、日本全国に出荷していた。
佑二の兄は、家業に力を入れる傍ら、島根県が自立出来る都市になるにはどうすれば良いか考えていた。 そして出した結論は、人口が多いほど経済の循環が良くなり発展するだった。
循環に必要な人口を算出すると、最低、五百万人が必要になる。その人口を確保するためには、まず、若者が県内に留まれるような政策が必要である。そこで兄は、大企業を誘致し、京都駅から山陰へ新幹線を通そうと考えているのだ。
兄の考えを聞いたとき、ホラ吹きと思ったが、よく考えてみると、県内の失業と、若者が都会へ流出する現状を阻止できる唯一の方法は、山陰に大都市を創るしかないことぐらいは、祐二にも理解できたし、祐二が立てた目標もそこにあったのだ。
勤務を終えた祐二は、激しい雨の中、新幹線で京都を出たが、彩世の河原に着いた頃には小雨になり、河原は夕暮れの雨で、薄暗くなっていた。