第49話
「あれは見せかけだったんだ」
父親は話がそれたことに気付き、
「慎吾くんの電話番号は知っているんだろう。すぐ、電話を掛けて尋ねなさい」
「今は出来ないわ」
母親が何故と聞くと、彩世が困った顔をして、
「名字や名前を聞いていたけど、名字を忘れましたなどと、恥ずかしくて云えないわ」
「なるほどなあ、でも、知らないではすまされないだろう。知っていないと不便なことが起こるよ」
「大丈夫よ。互いの携帯番号は知っているし、顔写真も携帯電話の中にあるわ。これが慎吾さんの顔よ」
彩世が携帯電話を両親の前に差し出し、慎吾の写真を見せた。
「おおー、素敵な青年ではないか」
母親は、父親の感想に付け足すように、
「本当ね。彩世が好きになるのも無理がないわね」
両親の反応から、慎吾との結婚を許されたと判断した彩世だが、もう一度確かめたくなった。
「じゃあ、慎吾さんを家に招いてもいいのね。そして、結婚も」
「ああ、私からお願いしょうと思っている。それだけでいいだろう母さん?」
母親は、しかたなく、承諾した。
「父さん、母さん有難う」
彩世はまた涙くんでいた。その彩世を見て父親が注意する、
「彩世、もう一度云うが、慎吾くんの住所、名前、大学名を知っておく必要がある。出来るだけ早く尋ねなさい」
「はい、明日にも聞いてみるわ」
「それがいい」
両親から、慎吾との結婚が認められ、彩世は心の中で喝采していた。
(私はなんて幸せなんでしょう)
彩世は、幸せに酔っていた。
わが娘の幸せそうな顔を見ていた父親は、何に気付いたのか、顔を曇らせ、彩世に尋ねた。
「本当に幸せか?」
「幸せよ」
と、彩世が笑顔で答えた。
「それならいいんだ」
母親は父親の真意が分からないので尋ねた。