表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/161

第41話

そんな時、

「お兄さん」

突然、声がしたので佑二が振り向くと、二日前、故障した自転車の修理をしてあげた少女が嬉しそうに立っていた。

「君か!」

振り向いた佑二が驚いたように云うと、

「驚かして御免ね」

少女が恥ずかしそうに顔を伏せた。

「驚いたは、嘘だよ」

佑二が否定すると

「お兄さんは私を本当に覚えている?」

少女が不安げに尋ねた。

「会ってから二日だよ、忘れる筈が無い、私はウルトラマンだ、君が呼んだから飛んで来たんだ、君の故障した自転車はこれだな」

佑二は、自分の沈んだ気持ちを振り払うように冗談を云った。

すると、少女は嬉しそうに云った。

「自転車の故障で呼んだのではないわ、お兄さんに、私の想いが届いたのよ」

「すまん、冗談が過ぎたようだ」

佑二が謝る。

「冗談でないわ、私、お兄さんに会えて嬉しい、その上、私を覚えてくれていたのが尚、嬉しいわ」

と少女は涙ぐんだ。

「僕には、呼んだのではない、お兄さんに私の想いが届いたのよ、は何の意味が分からない」

佑二が不思議そうに云うと、

「自転車を直してくれたとき、お兄さんは、私の自転車の前籠に、自転車を修理した道具を忘れていたでしょう」

と、ハンカチに包んでいた7㎝ほどの爪切りと観光のマップを見せた。

「爪切りと観光マップ」

佑二がポケットに手を入れたが、

「ない、そうだ、君に自転車の前籠に入れたのを今、思い出したよ」

佑二が照れくさそうに云うと、少女が、

「道具、お返しします」

と爪切りと観光マップを佑二に渡した。

「ありがとう、でも、もう、僕は自転車に乗らないから、君にあげる」

少女は喜んで受けとり、

「私、あの日、お兄さんと別れて家に帰っ時に、自転車の前籠の道具を見つけたのよ、お兄さんが困っていると想うと、すぐ返しに行かないと思い、急いで高梁川の大橋へ行ったけど居なかったので悲しかったわ」

この熱い日中、少女が必至になって佑二を探している様子を思うと佑二は可哀相でならない。

「可哀相なことをした、僕の不注意で君を悲しめた、ごめんよ」

佑二が辛そうに云うと、

「それが、可哀相ではなかったのよ」

と少女が嬉しそうに云った。

「可愛そうでない、なぜ?」

と佑二が意外そうにいうと。

「良い事があったのよ」

佑二と少女の話しが噛み合ない。

「そうだ、お兄さんは、さっき、悲しげな顔で高梁川を見て何を想っていたの?」

佑二は自分の心を見透かされたので驚いたが、

「何も想っていないよ」

と否定すると、

「そう、でも、もしもよ、高梁川で大切なことを想う場合に、絶対に必要なことを教えて上げる」

佑二は少女の云う意味が益々、分からなくなったが聞く事にした。

「大切なことを想う時には、絶対に長い時間をかけて想っていてはならないの。何故なら、雑音や雑念、邪念が心に芽生え、その雑音、雑念や邪念が大切な想いを消してしまうからよ、だから、想うのは一分以下がいいのよ」

聞いている佑二には少女の云うことが益々分からなくなった。

「想いとは?」

佑二が尋ねると少女が、

「あなたの流す涙が、大切な人を想う愛と哀しみなら、その涙を高梁川の清らかな水が、そっと,優しく受け取り、あなたの想いを大切な人に届けてくれるでしょう」

と云ってから、

「お兄さんは、意味、分かるでしょう」

分からんと云えない佑二は、

「何となく」

と云った。

「私には分かるは、高梁川の高梁川大橋の上から、大切な人に想いを寄せていると、その想いが大切な人に届くということよ」

「なるほど、君は難しいことをよく知っていたね」

と佑二が驚いていると、

「私は経験者よ、経験は一度だけと、私の想いが届いたわ」

「まるで奇跡だね、誰に想いが届いたの?」

「お兄さんよ、だから、お兄さんが此処に来ていたのよ」

佑二は、また、分からなくなった。

「僕がここに?」

少女は、そうよ、と云って話しだした。

「私は、お兄さんが道具を失って困っていると想うと悲しくて悲しくて仕方がなかったから、お兄さんに道具を返そうと高梁川に行って、高梁川大橋て、お兄さんがと通るのを待っていたの、でも、何時間も経ってもお兄さんが現れないのでなお悲しくなり涙がでたわ、私は、橋を通る人達に泣顔を見られたくないので、橋の下を向いていると、通りかかった観光客らしきおばさんが、何が悲しいのと、尋ねるの、私が黙っていると、大切な人のことを想っているのでしょうと云われたので、うん、頷くと、良い事を教えて上げると云って教えてくれたわ。

【あなたの流す涙が、大切な人を想う愛と哀しみなら、その涙を高梁川の清きらかな水が、そっと、優しく受け取り、あなたの想いを大切な人に届けてくれるでしょう】と、そして、この意味分かるでしょう、すぐ、あなたの想いを大切な人に届けなさいと云われたので、お兄さんに道具を返したい、どうか、お兄さんに会わせて下さいと心で想ったのです。すると、自然に涙が目から溢れ出て、高梁川に流れ落ちたの、それを見ていたおばさんが云ったわ。きっと、あなたの想いが大切な人に届くわ、と。すると、不思議に、私の心が急に軽くなったのよ、するとおばさんは、大切な人に想いを届けるのに長い時間をかけては駄目よ、何故なら、雑音、雑念や邪念が生じ想いが消えてしまうからよ、だから、想いを届ける時間は一分未満にしなさい、これは、私の経験よ、と云って、観光に出かけたわ」

話しが理解出来なかったのは、この少女が云うこと全てが、女性観光客の受け売りだったのたのだ。

佑二は少女の話しを聞きながら、女性観光客の考えが分かった。この少女の想いがこれ以上、高じないないように、気分転換を図ったのだ。そこで、女性は責任転嫁という方法を用いたのだ。責任転嫁とは、自分に出来ない事を他人や、神佛、占い等に頼ることで悩みや苦しみを軽くする効果を狙ったのだ。

話し終わった少女は、

「あなたの流す涙が、大切な人を想う愛と哀しみなら、その涙を高梁川の清きらかな水が、そっと、優しく受け取り、あなたの想いを大切な人に届けてくれるでしょう」

と、心に刻むように呟いた。

「あなたの願いごとが叶い、心が晴れて良かったね」

佑二は複雑な気持ちで云った。

「お兄さんに会って、道具をお返しでき、本当に良かったわ、こんな嬉しいことはないわ、もし、会えていなったら、今頃、この橋の上で暗くなるまで泣いたわ」

と、嬉しそうに云った。

「そうだ、自転車のチエーンが外れた時に、この爪切りの一部を使えば直せるが使うのが非常に難しいので、使い方を教えてあげる」

少女は喜び、真剣に佑二の教えを一生懸命に覚えていた。

「修理と爪切りの使用方法が分かったかな、特に爪切りの一部をネジ廻しに応用するのはコツがいるのが分かったかな?」

「はい、分かりました」

「流石に子供は飲み込みが早い、この爪切りを持っていたら、これからチエーンが外れても怖くならないから、安心して、自転車に乗れるよ」

「何から何までお世話になって有り難うございます」

と少女が神妙な態度をしていた、

佑二が急に思いついたように云う。

「そうだ、僕はこれから行く所があるので失礼するよ」

すると少女は寂しげな顔をしていたが、佑二に返し、貰った爪切りと観光マップを思い出した。

「お兄さんと初めて会ったとき、この観光マップを持っていたでしょう、と、観光マップを佑二に見せ、あの時間帯なら、全ての観光が出来なかったでしょう。続きの観光を私に任せて下さい、そうよ、是非、お礼に、観光案内をさせて下さい、お願いします」

と少女が頼み込むので、佑二は、

「今日は、自転車で一昨日に観光出来なかった箇所を観光していたんだが、橋の上にきた時、電話があってね、観光を中止しなければならない事情が出来たのだ。だから、今日の観光は無理です、その代わり、次に会った時には、必ず,観光をお願いするからね」

すると、少女は残念そうに云った。

「残念だわ、今度、来たら、必ず、観光案内をさせてね」

「確約するよ」

「観光案内担当者の名は、高梁すみれ、覚えていてね」

少女が自己紹介した。

「失礼しました、僕は、樫山佑二です、今後とも、よろしくお願いします」

佑二の多少おどけ風の自己紹介を聞いて、すみれが楽しそうに、

「どうぞ、高梁すみれをよろしくお願いします」

佑二が辛そうに云った。

「すみれさん、残念だが、僕は此処で失礼するよ」

佑二はすみれに見送られる形で、高梁川大橋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ