第40話
もし、女性が祐二をストーカーと思ったのなら、写生場所を他の河原へ変える筈だと思った。
しかし、上流の河原には女性が居なかったことを魚釣り少年に会ったことで分かったため、川下に点在する河原に居るかもしれないと思い川下に向かった。
しかし、行けども行けども、残念なことに女性は居なかった。
女性が居た元の河原へ戻った祐二は、河原から去りがたく、灼熱の陽光を浴びながら、正午過ぎまで、女性が現れるのを待っていたが現れない。
女性が現れるのを待つ間、佑二が思う事は反省ばかり、あの時、少年にストーカー呼ばわりをしても、堂々と逢いに行けば良かったと。
そして、当りが暗くなるまで、女性が現れるのを待とうと思ったが、灼熱の陽光が許さなかった。
陽光に負けた祐二は、駅に戻りながら、二者択一を間違ったのではないかと心底から後悔していた。
祐二が駅に着いた時に、やくも号が到着した。
だが、祐二は駅に着いた時から電車に乗る気はなかった。
何故なら、もし、来た電車には乗れば、次、何時の日に、此の町、高梁川の河原へ来られるか分からないからだ。
それほど佑二は、女性への未練心が断ち切れずにいるのだ、そして、この未練心を断ち切る為には、もう一度、高梁川を見て、女性が居ない事をこの目で見る必要あるとだと思っているのだ。
決心がついた祐二は高梁川へと歩き出した。
すると、自動車の警笛音が聞こえたので佑二が音の方を見ると、
「お客さん、タクシーに乗りませんか」
と声を掛けられた。
運転手の顔を見ると、二日前に乗せてもらったタクシーの運転手だった。
「今日は、町をゆっくり見物しながら歩きたいのです」
と断った。
「そうですか、また、御用があったら、電話してください」
運転手は佑二に名刺を渡した。
名刺を受け取った佑二は高梁川に向かって歩いた。
しかし、今の佑二は、今までのように、先を急ぐことなく、一分一秒でも、この町で居たいとの想いが佑二の歩みを遅らす、名残をおしむように。
その歩き方が以前に歩いた時の景色と、今の景色を変える、以前の景色は、高梁川に通ずる道だけだった。
しかし、今、歩いてる道の両側に様々な家屋やビル、そして、商店等が佑二の目に入り、町に対する親しみが湧いて来る。
佑二の前に交差点が現れた。佑二は信号が赤だったので、立ち止まり、景色を何気なく見ていると、自転車販売と貸与の看板が目に付いた。
(そうだ、自転車を借りて高梁市の観光しよう)
と急に思いついた。
(観光していると、あの女性に逢える可能性がある)
佑二は、早速、自転車を借りた。
(観光は高梁川大橋の次だ)
目的ができた佑二は、自転車で高梁川へ向かった。
自転車店から高梁川大橋は距離にして500m程ですぐに到着した。
佑二は橋の上から高梁川の穏やかな流れを見ていると、女性の顔が浮かび、佑二の顔が哀しみに沈む。