第4話
久しぶりに家路雲を見た祐二の脳裏に、夕焼け雲から仄かに照らされた帰り道と、その遥か向こうに、霞んで見える故郷の家が現れた。
そして、仲良しだった章治が遊びたりないとばかり、家路雲を恨めしげに眺めながら、歩いて帰って行く後ろ姿に、思わず追い掛けたくなる祐二。
「あら、虹の上を飛行機が飛行雲を描きながら飛び越えていった。虹は人が追い掛けても、追いかけても、追いかけた距離だけ逃げるというわ。私が今から虹を追いかけると、陽が沈まない間に、島根県を飛び出し、祐二が居る京都に到着するわね。そうだ、私が手紙を書き、その手紙をを紙飛行機に折り、虹に向けて飛ばすのよ。虹は人から逃れても紙飛行機からは逃れないから、手紙は虹の橋を渡って、すぐ祐二の元に着くわね」
母親の意味不明な話により、祐二は現実の世界へ引き戻された。
祐二は、自分が抱いていたこれまでの母親像とまったく違う今日の母親の言動に、ますます見合いの件だと確信した。
同時に、浴衣姿の父親が偉そうな顔をして家の縁側に座り、母親は見合い話を切り出すチャンスを伺っている様子が祐二の目に浮かぶ。そこで、無言の抵抗をしょうと考えた。
しかし、黙って聞いていると、無駄話を延々と聞かされ、最後は暗闇の中で整備点検をするような羽目に陥ると気付き、
「見合いの話ならお断りだよ」
機先を制した。すると、母親が、
「馬鹿ね、違うわよ」
あっさり否定した。
「ええ、それ本当?」
祐二は信じられない。
「見合いは父さんの役目よ」
母親が云う。
「じゃあ、用は何?」
母親は少し、間をおいて答えた。
「祐二と話がしたかったから」
「悪いけど、今、忙しいから後にして」
「忙しいって、駐車場で何してるの?」
「車の整備点検」
「なぜ、車の整備点検するの?」
話題を引き伸ばそうとするかのように尋ねてくる。
昼間より涼しいとはいえ、八月のこと、冷房もない駐車場での作業はまだまだ暑い。
「初めて買った新車を母さんや父さん、そして、幼友達に見せるために整備点検をしているんだよ。今夜帰ることは、数日前、母さんに連絡したよ」
「そうだったわね」
母親に歓迎の弁はなく、心は何処かよそにあるようだ。