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第39話

「分かっている、父さんに話すと、その女性の迷惑も考えずに、うちの祐二と結婚して下さいと会いにいくわ。だから、何も云わないわよ」

云うと、母親は土産物を祐二のバックに詰め込み、終わると、

「はい、用事が出来ました。送っていかずごめんね」

「いいんだよ」

祐二は、荷物を受け取り母親の見送る中、バス停へ向かった。

バス停は家から歩いて五分ほど。

祐二は、故郷の町を記憶に止めるため、ゆっくりと町並みを見てあるいた。

停留所へ着いた祐二がバスの時刻表を見ていると、幸運にもすぐバスがきた。

バスには十人位の乗客がいたが、子供の頃なら顔見知りの人が一人ぐらいはいたが、今は一人も居なかった。

故郷を出るとき、何時も後ろ髪を引かれる思いがするのだが、今回は、早く出ていきたいと思い、美しい高梁川が目に浮かぶ。

松江駅に着いた祐二は、バスから降りると切符を買い急いでプラットホームに駆け上がる。待つ間もなく、岡山行やくも号が入ってきた。

今日の祐二には、やくも号が、夢と希望に満ちた新しい人生へ誘う乗り物に見えた。祐二は胸を踊らせ、電車に乗った。

やくも号は、期待に胸を膨らます佑二を乗せて午前十時前に備中高梁川に着いた。高梁駅は高梁市の中心部に位置し、四方を緑なす山に囲まれた美しい町である。

改札口を出た祐二は、二日前と同じように荷物をコインロッカーに入れ、タクシーに乗ろうとしたが、ふと、立ち止まって考える。

(先日、女性は子供たちから、ストーカー男の話を聞かされていたら、僕がその男と分からないように衣服を着替えていても、河原に見知らぬ男が居れば、用心して河原へ来なくなるだろう。どうすれば良いのだ)

思案していると、街角から真っ黒に日焼けした二人の小学生たちが釣り竿を担ぎ、大きな声で話ながら、高梁川の方へ向かって歩いて行く。

(そうだ、少年たちは高梁川で魚を釣るんだ。後に付いて行き、適当な時間まで、少年たちの魚釣りを見てから、河原へ行っても遅くなるだろう)

と考えた祐二は、少年たちに声をかけた。

「君たち、魚釣りに行くのかな」

突然、知らない者から声を掛けられた少年たちは、一瞬、驚いたような表情をしたが、平静に答えた。

「そうだよ」

「高梁川へ?」

「うん」

二人が同時に答えた。

「そう、邪魔でなかったら、魚釣りを見たいのだが」

「いいよ」と、言って、少年たちは歩きだした。

「有難う」

礼を言い、祐二は少年たちの後を歩いていた。

しばらく行ってから、祐二が尋ねる。

「どう、魚はよく釣れる?」

少年たちは歩きながら、

「あまり釣れないよ」と、少し自信無げに答えた。

「どうして?」

「魚が少ないから」

琵琶湖では、ブルーギルやブラックバスが異常繁殖し、日本固有の魚たちが、今や、これら外来種の餌食になる家畜のような存在になり、もはや、以前のように、水だまりなどで、群れで遊び戯れることも出来ず、一生怯え続けるのだ。

「もしかしたら、この川にもブラックバスが居て、魚を食べているのかな?」

「そうだよ」

「じゃあ、楽しい釣りができないね」

少年と話している間に、高梁川に着いた。

「どこで釣るの?」

少年が遥か上流を指差して。

「向こう」

「残念だなあ、君たちの釣りを見たかったけど、あんな遠い所まで行けないから、ここで別れるよ」

祐二が云うと少年たちは、にこっと白い歯を見せ、

「もし、見たいと思ったら、来てもいいよ」

と、云って、上流へ歩いていった。

しかし、土地不案内な祐二に良い思案は浮かばない。そこで、橋の欄干に身体をもたれて川を見ていた。

(そうだ、川の中を歩いて行こう)

橋の袂には川へ下りる小さな道があった。祐二はその路を下り、水深を計ると、見た目より浅かったので、ズボンを腿まで捲り上げ、靴を脱ぎ、裸足で川に入った。

少年たちが云ったように、魚の姿を見付けるのに苦労した。

やがて、河原が見えるところまできたが、河原にはパラソルも、女性の姿も無い。

「逢いたかった」

祐二は力なく呟き、茫然とたたずんでいたが、ふと気付いた。

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