第37話
八月四日。
佑二は、母親の優しい声に起こされて目を覚ました。そして、愛に目覚めた佑二は、親のありがたさを今回の帰省て初めて分かり、心の中で母親に感謝していた。
「神妙な顔、どうしたの」
母親が尋ねる。
「いつも僕を見守ってくれて有難う」
「神妙な態度は祐二に似合わないし、私の不安が増すだけよ。何時もの祐二が私は一番好きよ」
と云って母親は部屋を出たが、初めて聞く祐二の優しい言葉に目を潤ませた。
祐二が帰り支度を終えた頃、母親が来て、
「もう帰るの?」と寂しそうに聞く。
祐二は、うん、と短く答え、背伸びをした。
「章治さんのお悔やみはすませたのね?」
「昨日、幼友達と一緒に行ったよ」
「どうだった?」
「それは悲しかったよ。皆、声を出して泣いていたよ」
「人の死は悲しい。特にまだまだ人生がある子供や若者の死はなお悲しいものよ。だから、私を悲しめないようにしてね。」
「分かったよ、母さん」
「じゃあ、食事の用事が出来ているから食べなさい」
頷いた祐二は、母親に導かれ、食卓に着いた。
「父さんは?」
「仕事よ」
「こんな早い時間なのに?」
「早い?太陽はとっくに昇ったわ。人間も植物も、朝がとても大切なのよ」
と、母親は云ってから、
「見送りもせずに悪いが、元気で暮らせたらと父さんが云っていたわ」
父親の代弁をした。
「そう、じゃあ、父さんに、元気でと、伝えてください」
「分かったわ」
食事中、二人は世間話をしていたが、母親が急に深刻な顔をして話始めた。
「昨日まで、この家には、保夫婦と孫たちが一緒に暮らしていて、それはとても賑やかで楽しかったわ」
「そういえば、父さんや母さんの顔から笑顔が絶えなかったね」