第36話 明と暗
少年たちにストーカー呼ばわりした佑二は、タクシーに乗ったが女性のことを思うとこのまま、タクシーに乗って故郷へ帰る気にはならなかった。
そこで、タクシーが高梁川の高梁川大橋を渡る前にタクシーを降りた。そして、高梁川大橋を渡り始めたが急に立ち止まり、川下の河原にいる女性の姿を探す、無論、女性の姿が見えないことも知っていた。
(明後日の八月四日、必ず、貴方に逢いに行きます)
佑二は、女性の顔を思い浮かべ心の中で約束し、前方を見ると、中学生らしき1人の女性が自転車を重そうに引っ張っている。
自転車修理には自身がある佑二は、駆け寄り、
「故障したの」
突然、男に声をかけられ振り向いた女生徒は、佑二を悪い人ではないと思ったのか、
「はい、押しても引いても車輪が廻らないの」
と少女は尚も動かそうとしている。
「僕は自転車修理に自身が有るんだ、点検してもいいかい」
「いいわ」
と、真っ黒に日焼けした少女が笑顔で答えた。
佑二は手に持っていた観光マップを自転車の前籠に入れ、自転車を点検するとチエーンが外れていることが分かった。そこで佑二は常時携帯している長さが約7センチの爪切り(この爪切りは爪の先端を磨くヤスリ付きで、そのヤスリがネジ回しの代用になる)をポケットから取り出し、チエーンカバーを取り外し、外れたチエーンを直し、車輪が回転するかを確認し、チエーンカバーを短時間で取り付けた。
「直った」
と呟いた佑二は、爪切りを自転車の前籠の中に入れていた観光マップの上に置き、油で汚れたて手をティシュペーパーで拭きながら、
「自転車に乗って試験運転をしなさい」
促された少女は嬉しそうな顔をして乗り、自転車を漕いだ。
「廻るわ、お兄さん、有り難う」
「自転車修理なら僕に任せてください、どんな遠い所からでも飛んで来るから、あっ、私はウルトラマンではないので飛べない、君はウルトラマンを知っている」
佑二は冗談を云った。
「少し知っている、でも、今日のお兄さんは、ウルトラマンだわ」
少女が明るく答えた。
「運転に気をつけて帰るんだよ」
と佑二は少女が乗っている自転車を後ろから押す。
「はい」と答え、少女は元気よく高梁川大橋を渡り姿が見えなくなった。
後に残った佑二は、彩世が居た河原に心を残し、やくも号に乗って故郷へ帰って行った。