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第32話

「あの人は.......」と呟くと、男の後を追い掛けた。

彩世が男の姿を見たとき、男はタクシーに乗るところだった。

「こんな何もない所へ、あの人が来るはずがないわ」

呟いた彩世は、追いかけるのはやめ、河原へ戻り始めた。

スーツ姿で闘う男と、背中を丸めたジーンズ姿とでは、誰が見ても同一人物には見えない。

だが、男に恋する彩世は本能的に知るが、理性が目を曇らしたのだ。

しかし、彩世は肝心なことを忘れていた。あの人が来るのを待っている自分を。そして、以前の自分なら、助けてくれた男の可能性が少しでもあれば追いかけていたことを、それが出来生なったのは、男のことを忘れようと思っているからだ。

祐二の決断、彩世の思い違いによって、この二人の運命を大きく変える一人の若い男が川下から、川を渡り彩世がいる河原へ向かっていた。

何も知らない彩世は、完成した絵を見ていたが、川下で水音がしたので振り返った。

「やあ!」と、男が気やすく声を掛けてきた。

彩世は、どう答えて良いのか迷っていると、男は何の躊躇もなく近付いてくる。

やがて、男の顔と服装がはっきり見えてきた。男は背中にリユックを背負っているが、身に付けているものは、海水パンツ一つだった。

彩世にしてみれば、海水浴場やプールで、海水パンツ一つの男性を見ても、恥ずかしいと思うことはなかったが、自分以外に誰も居ない河原で、若い男のパンツ姿を見るのが初めての上、男の爽やかな顔を見て、消え入りたい程の恥ずかしさに襲われた。

恥ずかしい、それは男に恋心を抱いた証拠、彩世は男の姿が眩しく映り、頭の中が真っ白になっていた。

そんな時、男は東京の大学四年の真竹慎吾と名乗った。

しかし、恥ずかしさで、頭が空白だった彩世には、慎吾の言葉が聞こえていなかった。

彩世の恥ずかしげな様子に気付いた慎吾は、自分が海水パンツ一つの姿だったことに気付き、顔を赤らめると、急いで、背負ったリユックから短パンとTシャツを取り出して着た。

慎吾は、彩世を気遣いながら話始めた。

「僕は高梁川を研究しているものです。そのための調査をしていたんですが、あなたが写生しているのに気付かず、邪魔をしてしまいました。謝ります」

少し落ち着きを取り戻した彩世は、慎吾の言葉が聞こえるようになった。

「いえ、邪魔だなんて思っていません」

慎吾は、一度、名乗ったので、また、氏名を名乗るのは変だと考えたのか。

「僕の名はシンゴ、あなたは?」と遠慮ぎみに尋ねた。

「彩世です」

答えてから、彩世はなんともいえない幸せ感に包まれた。

「何を写生しているのですか」

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