第31話
タクシーから下りた佑二は、川沿いに沿って作られた土手の上に作られた細い道を川下に向かって歩いた。
土手には、背丈の高い草木が生え、川の様子が見え難い、少し歩くと、土手の草木が刈り込まれた場所があり、距離は遠いが、河原で写生する女性の姿が見えた。
(間に合った!)
祐二は天にも昇る気持ちになった。
刈り取られた場所を過ぎると、また背丈の高い草木が茂り女性の姿見えなくなった。
やがて、草木がまばらになり、女性の姿が真横に見え隠れし始めた。そこから少し川下へいけば河原に下りる小さな路があるのだが、気が急ぐ祐二は、夏草をかき分け、河原へ下りながら女性の顔を見た。
「なぜだ?」
と、思わず呟いて立ち止まった。
女性の顔は昨夜から何度も祐二の脳裏に現れた同じ顔とヘアーバンドだ。何処で逢ったか思いだそうとしていると、後ろで人の気配がした。
祐二が振り向くと、何時の間に来たのか、タクシーで追い越した、あの三人の子供たちが警戒感も露に、祐二と女性を見比べていた。
祐二は彩世のことが頭が一杯だったので、すぐ後を子供たちが付いてきているのに気が付かなかったのだ。
少年の疑惑に満ちた目を見た佑二は、少年たちの顔が今朝、祐二をストーカー呼ばわりした男児に見えた。(しまった。子供たちは僕が彼女に近寄って行くと、今朝の子供のように、このおじさんはストーカーだよと、彼女に告げるだろう、いくら云い訳をしても、いや、云い訳も聞かず、女性は逃げ出すだろう)
祐二がそう考えたのは、今朝の経験もあるが、昨今、ストーカーによる凶悪な殺人が多発しているため、人々がストーカーと云う言葉に対して危機感を抱いているんからだ。
最愛の女性にストーカーだと勘違いされるのは余りにも代償が大きいと祐二は思った。
少年たちは警戒と猜疑心の眼を佑二に向け、女性の方へ駈け出した。それを見た祐二は、女性に逢うのを諦め、身を縮めるようにして、来た道を急ぎ足で引き返した。
少年たちは、彩世に駆けよると、祐二が立ち去った方を指差して云った。
「今、あそこからお姉さんを見ているお兄さんが居たよ。もしかしたら、ストーカーかもしれないよ」
彩世が恐ろしそうな表情をして、指差された方を見ると、ジーンズ姿の男が背を丸くして草木の間から現れたが、すぐ、草木に隠された。
その姿を見た彩世は、
「あの人がストーカーなの?」
「ストーカーでないのなら、覗いたりしないよ」
と少年は決め付けた。
「それもそうね」
と彩世は云ったが、すぐ、