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第28話

「わたし絵が下手なの、指切りよ」

と、彩世の指に指をからませてきた。

絵が下手なのは、絵を描く時間もお金もないからだ。

百合が四年生になると花の名前を知ったのか、

「河原で咲くカワラナデシコの花はね、一粒の土もない石と石の間で、一生懸命に花を咲かせているのよ。サヨも苦しいけど、この花に負けないように頑張ってね」

急に大人びた励ましをする。だが、翌年の夏、百合は、この川で溺れそうになっている年下の子供を助けようとして溺れ死んだのだ、その日が八月二日だった。

百合の死を知った彩世は、あまりの悲しさに生きる気力を失ったが、百合が活けてくれたカワラナデシコの花を見ているうちに、百合に心情を察して涙が流れた。

あれは彩世が入院してから最初の面会日、同級生や近所の友達がお人形や玩具を持ってお見舞いにきて時の事だった。

少し遅れて百合が一本のナズナの花を持ち見舞いにきた。百合は他の友だちのが持ってきたお見舞品と自分が持ってきたナズナの花を見比べ、急に悲しそうな顔をすると、ナズナの花を自分の背中に隠し、みんなの後へ隠れた。

それを見た彩世は

「母さん、私の大好きなナズナの花の匂いがするわ、もし、誰かが持ってきてくれたのなら花瓶に活けてください」

云うと、母親は何気ない素振りで、

「彩世は野山や川で咲く花が一番好きだったわね、百合さん有難う」

云ってナズナを受け取って活けると、百合の目から涙が溢れた。

百合は、あの日から死ぬまで、花が枯れそうになると元気な花を持ってきてくれた。

(どんな苦境にも負けない心優しいユリ。ユリの行動の全てに愛がこもっていたわ。もし、私が死んだら、ユリはきっと悲しむわ。それだけではない、死ねばユリとの約束が果たせなくなる。そうだわ、一日も早く病気を治し、高梁川の河原でカワラナデシコの花の絵を上げなげければ)

と、考える彩世だったが、病気の身ではどうにもならず、心を痛めていたが、翌年の春になってから病気が急に治り、毎日のように高梁川に来ていた。

憑かれたように高梁川へ行く彩世を見て両親は、このまま彩世を放置していたら、何時の日か、百合と同じ運命を辿るのではないかと危惧した。

そこで両親は、彩世を高梁川から引き離すことを考えた。その結果、彩世の心が落ち着くまで、京都市南区蒔絵町に住む、彩世の母、操の両親に預けることにした。その旨を話すと、孫の世話が出来ると、大喜びして引き受けてくれ。

そこで、彩世は六年生の二学期から京都の小学校へ転校した。

京都に来た彩世は、両親や百合のことを思い出すと、胸が張り裂けるような淋しさに襲われるのだ。



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