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第27話 お伽の国

河原からパラソルを抜いた女性は、また、パラソルを立てようとしていた。

どうやら、吹いてきた強い風が、パラソルを大きく傾かせ、女性に熱い直射日光が当たり、写生ができなくなったので、パラソルを立て直しているのだ。

作業が終わると女性は、パラソルの中に入り、カワラナデシコの花の写生を始めた。すると、また、川下の方から微風が吹き、川面にさざ波をお越した風が河原に上陸し、パラソルの中の女性の長い黒髪を靡かせ、河原に生息するカワラナデシコや名前も知らない草花たちを揺らせながら通って行く。

花は風に弱い、女性は風が通りすぎるまで写生を中止して、風の行方を見つめる。そして、風が通りすぎると、優しい目で花を見つめては筆を繊細に動かす。

今日の河原は、倉敷駅方面で猛烈な雷雨が発生した影響かどうかは不明だが、度々強い風が通り過ぎて写生の邪魔をしたので、絵の完成が一時間以上も遅れているのだ。

この女性は、天見彩世、京都の宮都大学二年生。この猛暑の中、京都から高梁市東町の実家へ帰省し、この河原で写生するのには悲しい訳があった。

訳とは、彩世は小学三年生の冬、突然、難病を患い、病院に入院した。

彩世の病状は重く、面会謝絶が二ヶ月も続いたが、早春になって病状が少し良くなり面会が許されるようになった。

同級生の百合は、彩世の身を案じて、毎日のように彩世を見舞いにきていたが長くは居なかった。

なぜなら、百合の父親は、妻と三人の子を残し、一年前に急死したのだ。そのため、妻は、三人の子供を育てるために、土木の仕事など、様々な仕事を朝から晩まで働いたが収入が少なく、何時も苦しい生活をしていた。

どんな苦労も厭わずに働く母親の姿を見た百合は、贅沢心を捨て、幼い弟や妹の面倒を見ながら、陰で母親を助けていたのだ。

そんな訳で、彩世へのお見舞い品も、野山で摘んだ一本の花しか持って来れなかった。

しかし、彩世には百合の優しさが伝わり、何時も感激していた。

夏が来ると、百合は高梁川で摘んできた一本のカワラナデシコの花を彩世に差出し

「この花の名は知らないけど、私の大好きな花なの、サヨにあげるわ」

と云って、淡いピンク色した花を、荒れて黒くなった小さな手で花瓶に活けた。

その時、百合は高梁川から直接きたのか、何時も高梁川の匂を病室に持ってきた。彩世はその匂いがとても好きだった。

彩世の想いを察した百合は、病気が治ったら、高梁川で一緒に泳がないかと誘った。

「私、川で泳いだことがないの。病気が治ったら、高梁川へ行って、カワラナデシコの花を写生して、百合にあげるわね」

すると、百合が嬉しそうに、

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