第24話
「父親に痛い目に遇わないと、人の苦しみや痛みが分からない。そして、手加減も、といわれ、空手と柔道を習わされました。その関係で警察官に成りたいと思ったんです」
「しかし商社員になった。なぜ?」
「生意気にも、会社を設立したいと考えたからです」
祐二が恥ずかしそうに云うと、
「結果を尋ねるのは早いかな?」
「はい、未だ核さえ見えず、です」
「頑張れと云いたいが君は正直で優し過ぎるようだ。商社より警察官向きだと思う」
「正直や優しさには異論が有りますが、時々、僕もそう思ったことがありました。しかし、僕が中学一年生の時、級友の一人が他校の生徒数人に袋叩きにされているのを見て、止めに入ったのですが、反撃されたので、手加減ができす投げ飛ばしました、後日、投げた生徒の保護者が警察へ行き、僕に骨を折られたと被害届けをだしたのでのです。罪には問われなかったんですが、それが切っ掛けで警察官になる夢を捨てたんです」
「なるほど。私も、何度か人生の岐路に立った。そして、その度に、自分の意志で道を開いたと、その時は思っていたが、今、思うと、何だか運命に操られていたような気がしてならないんだよ」
「運命、ですか」
「そう、樫山君と私が同席していることも運命と思うんだが、どう思う?」
電車の中で会ったからといって、運命と論じるのは、あまりにも胆略的だと考え、
「そうは思いません」
否定的に答えたが、岡本は気にせずに、
「じゃあ、樫山くんは今日まで運命を感じたことがなかったのかな?」
「ええ、一度も」
「私の年齢になると、自分の人生を振り返る回数が一段と増し、あの時こうしていれば等と考える度に、運命の存在を強く感じるんだよ。しかし、若者は未来に希望を抱いているから、過去を振り返る暇がないんだな」
祐二は、運命という言葉が急に新鮮に聞こえ、興味が湧いてきた。
「運命についての話を聞かせてください」
「自分が抗しきれない運命は別として、自分の二者択一により決まる運命がある。人間の一生の間には、無数の二者択一が行われ、その一つ一つを繋ぎあわせたものが、運命であり人生だと私は考えている。しかし、最初の選択を誤っても何度かのチャンスがあるが、段々と選択が難しくなる。だから、どんな小さな二者択一でも疎かにできないのだ」
「二者択一ですか」
「そうだ。だが、二つから一つを自由に選べるように思えるが、選ぶ本人にとって、それしか選べないようになっているんだ」