第23話
「そうだね、私もこれから気を付けるよ」
と男は云ってから尋ねる。
「帰省かね」
「はい」
「私の名は岡本、仕事で出雲へ行くんだが、君の故郷は高梁市かね」
「いえ、違います、島根県生まれの樫山祐二です」
祐二が名刺を渡すと、
岡本は、一瞬、おや、というような顔をしたが、
「京都の京極商事は、確か下京区西大路通りに面した所にあったね。私も同業だよ」
岡本も名刺を祐二を渡した。名刺には、岡本正樹とあり、会社の所在地は、大阪の梅田となっていた。
「島根県か、いい所だ」
岡本は遠くを見ながら呟いたのち、自分の故郷を思い出したのか寂しそうに云う。
「いいなあ。帰れば、優しい親、同級生、美しい自然が待っているんだね、私にも故郷があった。しかし、今は帰っても誰も居ないんだ。過疎化によってね」
云いながら岡本は目を潤ませていた。
「悲しい話ですね」
岡本は、うん、と頷いた後、尋ねた。
「君の両親は、健在かね」
「はい」
岡本は、前席の母子が気になるのか、
「あの母子にも、お祖父さんお祖母さん、そして、美しい自然が両手を広げて迎えてくれている。そして田舎は安心して子供が遊べる。きっと楽しい夏休みになるだろう」
云った美しい言葉の裏には、そうあって欲しいとの願いが込められていた。
祐二が岡本の次の言葉を持っていると、
「いい身体をしているね」と、急に話を変えられた。
「いえ、まあ」
祐二が恐縮していうと、岡本は目を細めて尋ねた。
「仕事に満足しているかね」
「もちろんです」
その満足げな答えに岡本は、笑顔で云った。
「じゅあ、自分の理想の職に付けたんだ」
「ええ、でも子供の時は違っていました」
興味深げに岡本が尋ねる。
「ほう、それは何かね?」