第22話
(あの泣き虫だった子が、いつの間にか弱い者を助ける強い男の子になっている。そうだ、学生が男の子を男にしたのだ、男はそうでなければならない。小さな勇者よ、頑張れ)
声無き声援を迷った。
その内、乗客たちは稲妻や轟音に慣れてきたのか、方々から話し声が聞こえだした。
やがて、電車は倉敷駅に着いた。
祐二が心配げに、横の男に尋ねる。
「この豪雨は一日中降り続けるでしょくか?」
「いや、にわか雨だから間もなく止むだろう」
聞いた祐二は安堵した。だが、すぐ。質問の仕方が間違っていることに気付いた。
「高梁市方面は降らないでしょうか?」
尋ね直すと、男は、祐二の上へ身を乗り出し、電車の窓の曇りをティッシュで丹念に拭き、屋根と屋根の間に隙間から空を見上げ、
「雲が南西から北東に向かっているようだ。雷雲は雨を降らす範囲が小さい上、北東に向かっているから、ここから北西に位置する高梁市は、今後、降る心配は無いね」
と、男は分かりやすく説明した。
「良かった」
祐二がほっとしたようにいうと、男は尋ねた。
「雨が降ると都合が悪いことでもあるかな?」
お伽の国へ行くとも云えず、世間並のことを云う。
「いえ、雨が降ると景色が見えないから退屈します」
「なるほど」
納得した男は、バックから、祐二が屑箱にいれたのと同じ新聞を取り出して云った。
「この豪雨が、早明浦ダムに降ればいいのにね」
「すみません」
祐二が謝ると。
「ええ?」と、男は訳が分からず、祐二の顔を見た。
祐二が釈明する。
「雨が降らず、水不足のせいで、殺人事件さえ起こっているのに、雨の旅は退屈だ、などと、自分が勝手なことを云ったことです」
「君は、もしかすると、私が贅沢をいうなと、新聞を見せたと思っているんだな。もしそう受け取ったのであれば申し訳ないことをした」
「じゃあ、他のことで?」
「そうだよ、見せたのはね、毎年のように渇水しているのに、対策を立てず、同じ水不足を繰り返し、人々を難渋させる行政の怠慢を批判したかったんだよ」
「そうでしたか。でも。難渋している人たちのことを考えると、やっぱり軽卒でした」
素直に非を認めて謝る祐二を見て、男は我が子以上の親しみを感じ始めた。