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第21話

「指定席券を見せてください」

母親が座席券を少年に見せると、少年は、母子を乗車位置へ連れて行った。

しばらくすると、やくも号がプラットホームに入って来た。

学生は、母親の荷物を持ち、車両中間よりやや後部の座席へ母子を導いた。

「有難うございました」

母親が少年に礼を云った。

学生は、また恥ずかしそうな顔をし、黙ってお辞儀すると、電車を降り、別のプラットホームへ行った。

その後ろを母親と子供たちが感謝の眼差しで見送っていた。

ホームにいた祐二からは、学生と母親の言葉は聞こえてないが、大体のことが読みとれ、祐二の胸が感動で熱くなった。

全てを見終わった祐二が座席券を見ると、座席は母子より、三席後方だった。

乗車した祐二は、荷物を置くと窓際の席に着いた。そして、惹かれるように、あの母子に目を向けた。

すると、母親似の黒い瞳が印象的な少女が席を立ち、後方に愛らしい笑顔を向け母や弟と楽しげに話をしていた。

母子の様子を見ながら祐二の脳裏に過ぎし日が蘇る。夏休みがくると必ず、子供を連れた何組かの家族が都会から帰ってきた。その時、祐二の目を引くのは子供たちではなく、都会風に洗練された美しい母親たちの姿だった。

祐二は、急に自分が自分でないような気がしてきた。それもその筈、昨日までの祐二は、諸事に関わらないようにしていた、但し、人が難渋していたら無条件で助けていた。

突然目の眩むようね稲妻が走ったかと思うと、雷鳴と共に激しい雨が降ってきた。

祐二はその激しさに驚き、無意識に身を避けようと身体を横に向けた。すると、自分の肘が人体らしきものにゴツンと当たった。

「すみません」

祐二は急いで謝ってから横をみると、何時の間に座ったのか、隣の席には、頭髪が少し薄くなった六十歳くらいのセールスマン風の男が座っていた。

男も今の雷と豪雨に肝を潰したのか、興奮した声で云った。

「謝らなくてもいいよ。光と音の凄さに、私も飛び上がるほど驚いたんだから」

電車が駅を出るとすぐ、滝のような豪雨が電車を襲い、激しい雨音を立てる。

そして、十秒ごとに、稲妻が走り、豪雨で薄暗く曇った景色を、一瞬、白日の下に曝すと、次はは身も縮む程の轟音を鳴り響かす。その度に、子供や女性たちは悲鳴を上げる。

同時に、身体を椅子に伏せ、誰ともなく助けを乞うていた。

祐二は、あの母子が、恐い思いをしているかもしれないと思い、親子の席を見て驚く。

席では、母と娘が恐そうに抱き合っていたが、男の子は雷を恐がらず、母や姉は僕は守るんだと、肩を怒らせ、突っ立っていたのだ。

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