第20話 八雲
伯備線へ向かう祐二の前を、白いジーパンとライトブルーのサマーセーターを着た三十歳位の美しい女性が、小学校低学年の少女と幼稚園児らしき男児と一緒に歩いていた。
どうやら親子連れらしく、女性はリユックサックを背負い、二個の荷物を重そうに両手に持ち、子供たちにも、大きなリユックサックを背負わせていた。
女性の顔は汗にまみれていたのは、荷物が女性には酷な重量なのだ。その様子から、何となく危ないと感じていた祐二は、母親の持っている荷物の一個でも持ってあげたいと思った。
しかし、子供連れの女性は用心深いと誰かが話していたことを思い出し、余計なことをすると、警戒されるだけと考え、関わらないことにした。
そんな時、母親の背負ったバックが横にずれた。それを直そうと母親が背中を動かした途端、手に持っていた荷物とのバランスが崩れ、歩道に、つんのめるように倒れかかる。
「危ない!」
祐二は思わず声を出したが遅く、母親は倒れた。
急いで祐二は助け起こしに行こうとしたが、自分が持っている荷物が邪魔をして、急には動けずにいた。
すると、前を歩いていた高校生らしき少年が素早く駆け寄り、母親の背負っている荷物を肩から外し、母親の両手を持つと引き上げるように助け起こした。
その間、子供たちは、どうして良いか分からず、突っ立ていた。が、よく見ると、男の子が泣きべそを掻き姉に縋り付いていた。
学生に助け起こされた母親は、よほど驚いたのか、顔を蒼白にさせ、足が小刻みに震えていた。だが、必死に態勢を整えると、震える声で学生に礼を述べた。
「有難うございました」
「いえ」
学生は、女性の顔を見て、一瞬、色白の顔を真っ赤に染めたが、すぐ女性の身を案じ、はにかんだ様子で尋ねた。
「怪我、ないですか?」
「ええ、大丈夫よ」
それを聞いて安心した学生は、母親が持っていたバックのうち、二個を手に持ち、行き先を尋ねた。
「米子です」と母親が答えた。
学生は小さく首肯き、母親が持っていた、もう一個の荷物をも受け取ると歩きだした。
二人の子供たちは、学生を尊敬の眼差しで見ながら、少年のすぐ後ろを歩いて行く。 祐二も、学生や親子のあとを追い掛けるようについていった。
学生は親子を伯備線、やくも号乗り場に案内すると。