第2話
祐二は、待っていた友人からの電話でなかったので、面倒臭そうに云うと、母親は気にせず、
「今、どこに居るの?」
佑二が物心ついてから、今日まで聞いたことがないような優しい声で尋ねた。
「駐車場」
警戒心を抱いている祐二は言葉少なに答えた。
「じゃあ、先月半ばに引っ越した賃貸マンションの?」
「そうだよ」
「じゃあ、仕事を終え、会社から帰ってきているのね、ご苦労様」
母親は、人間が仕事するのは当然のこと考えているため、ご苦労さまなどと、わが子たちに云ったことがないので、
(また、あの話だ)
祐二がうんざりした顔をする。
あの話しとは女性との結婚見合いである。祐二が見合いと断定する理由は、父親の洋が極端な早婚多産主義だったからだ。
子供たちは、父に早婚多産の訳を糾すと、洋は急に悲しげな顔をして、結婚が遅れたら多くの子供を生めないからだと答えた。
子供達は、洋が晩婚の夫婦から生まれた一人っ子だったため、淋しい思いをしたせいだと納得したが、洋には誰にも話せない辛い過去があったのだ。
辛い過去とは、洋が大学在学中のある日、若い女性を数人の若者が襲い、車で拉致しょうとしている所へ遭遇したのだ。
洋は、咄嗟に助けなければと思い、助けに行こうとしたが、急に身体が硬直して動けなくなった。原因は何時も両親が云ってる言葉「洋は一人っ子。もし、お前に死なれたら私たちは生きる希望がなくなる。絶対に危ないことはしないでおくれ」が頭に浮かんだからだ。
硬直した時間は一瞬だったが、犯人が女性を車に押し込むには充分だった。
拉致車が消えていった道を茫然と見つめる洋の脳裏に、拉致された女性の恐怖に満ちた顔が映った。その瞬間、女性が殺されると直感し、自分の犯した罪に気づいたのだ。
そこで洋は、藁をも掴むおもいで、犯人達に対し、女性を無事に返してくださいと、地に伏せて頼んだ。 しかし、願いは虚しく、二日後、女性は無惨にも死体で発見されたのだ。
その残虐な行為を知った洋は、
「一人っ子でなかったら、助けに行けたのに!」
血を吐くように叫び、自分を激しく責めた。
「僕に人を愛する強い心があれば、一人っ子の所為にせず、例え、殺されると分かっていても助けに行けた。人を人が助けずして誰が助けるというのか。僕のような人間が居るから凶悪犯罪が増加するんだ」
洋は、被害女性に対する償いから、人助けが出来るように、多くの子供を産み育てると誓った。
だが、三人の子供しか恵まれなっかた。また、子供の数が多くても、人を愛する心と体が弱くては意味がないと考え柔道や空手を習わし、早婚、多産を推奨しているのだ。