第159部分
「違う、例え、僕が死んでも、あの男達はきっと逮捕される。逮捕されれば、もう、被害に遇う女性がなくなるんです。その為には、僕の命をいくら犠牲にしてもいいと思っています。だから、めぐみさんには何の落ち度も責任もありません。絶対に死ぬなど考えないでください」
祐二がめぐみの苦しい心情を察して云うと、めぐみは、こんな酷いめにあわされても、まだ、私のことを考えてくれるのかと泣き崩れた。
祐二は、意識が朦朧としていて、めぐみの顔がはっきり見えない。
その見えない目を大きく開いて聞く。
「怪我、ないですか」
祐二がめぐみに尋ねる。
「ええ、祐二さんのお陰よ」
苦しさに堪えながら、めぐみの身を案じてくれる祐二の優しさに、めぐみは胸が張り裂けるような悲しみに襲われた。
祐二が苦しい息遣いで云った。
「めぐみさんに、、お礼を云いたいと思っていました」
「なんでしょう?」
「小説のことです」
「あの小説、書けましたの」
「ええ、、二人は巡り会い結婚します」
「この私が祐二さんのお役に立てたのね、嬉しい」
そして、めぐみは祐二の顔を胸に抱き、神に祈るように云った。
「死なないでお願い!」
「僕は死なないよ」
云うと、最後の力を振り絞って起き上がると、展望台へ上がって行こうとする。
「動いたら駄目、病院へ行きましょう」
めぐみは、祐二を自分の車に乗せようとした。
「車はパンクされているから走れないよ。救急車が来るまで夕日を見ていたい」
祐二は展望台へ向かおうとする。
展望台までの距離は二十歩に満たないが、祐二一人では到底、到達できないだろう。
めぐみは、祐二が自分の人生を確かめようとしていると気付き、祐二の身体を後ろから支え展望台へ向かった。
着くと同時に祐二は力つきたのか身体が倒れ始める。
めぐみの力ではそれを防げず、崩れるように二人は倒れた。めぐみは、祐二が夕日をよく見えるように、祐二の上半身を起こし、背を自分の胸で抱くように座らせた。
祐二の目に、日本海に沈む夕日と夕焼けが見えた。
「帰ろう」